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リスクと広報

匿名記者が明かした謝罪会見の裏側――「朝日新聞記者のいない会見場」

朝日新聞「吉田調書」、慰安婦関連記事取り消し問題

マスコミ業界に衝撃を与えた、一連の朝日新聞の問題。9月11日、“メディアがメディアを裁く”会見に立ち会った某新聞社の記者が、匿名で本誌に当時の思いを寄せた─。

9月12日付の朝日新聞朝刊では、この日の謝罪会見の様子が大きく報じられている。

会見遅延は“作戦”か?

9月11日。2001年に起きた米同時多発テロになぞらえ、朝日新聞の記者がTwitterで「朝日の9.11になりました」とつぶやいたあの会見は、実際当日に朝日新聞本社にいた他社の記者からみても、忘れられない会見になった。普段、どの会見にも絶対にいて、根掘り葉掘り質問する朝日新聞の記者たちがいなかったあの日の会見を、“舞台裏”の情景とともに振り返りたい。

「朝日新聞の社長が謝罪会見を開く」─。この話は、会見の当日朝までには、すでに各記者の間で知れ渡っていた。社内の口コミで話題になっていたし、ネットでも「会見が行われる」という趣旨の記事が出ていた。しかし、朝日側から、会見の詳細を伝えるファクスが待てども来ない。ようやくファクスが届き、正式な会見時間が分かったのは夕方になってからだった。「夕方のテレビのニュースの時間帯を避けるためだろう」「ギリギリで発表することで、右翼やネット右翼のデモを呼び込まないためでは」─。記者の間でもこの“遅延”についての憶測が飛び交った。

午後6時ごろ。記者が朝日新聞本社のある築地に到着すると、そこには多数の警察車両が並び、厳戒態勢が敷かれていた。ただ、朝日や警察側が懸念していたようなデモや抗議は一切ない。有事の際に現場を取材する“警戒”を指示されたとおぼしき若手記者も多く、ある全国紙の社会部記者が「こんなにものものしい警備なのに、抗議する奴なんて一人もいない。一体、何のために俺はここにいるんだ……」とぼやく姿が印象的だった。

入口では、朝日の社員が各社の記者の出入りを厳しくチェックしていた。木村伊量社長ら幹部が出席した会見場に入れるのは、各社3人のみ。従って、あの場に各社の政治部や社会部の「エース級」記者がいたことになる。会見場に入りきらなかった記者は、本社内の「別室」でモニター視聴ということになったが、それでも別室に用意されていた椅子はすぐに埋まった。

会見場への参加を制限した理由について、朝日側は「警備上の観点から、やむを得ず狭い会場での会見になった」と説明していた。しかし、会見すること自体は事前に決まっていたのだから、より広い会場を確保することはできたはずだ。あるいは、全国紙やキー局のみならず、各地方紙の東京支社の記者も数多く出席したこの会見への「世間的関心」の高さを、朝日側は低く見積もっていたのかもしれない。

想定外だった慰安婦記事謝罪

会見は午後7時半ごろにスタート。朝日が5月20日付の朝刊で、当時非公開だった「吉田調書」を入手し、「福島第一原発にいた所員の9割にあたる約650人が吉田所長の待機命令に反し、福島第二原発に撤退したことが分かった」などと報道した「吉田調書報道」について、木村社長が謝罪したことは想定通りだった。

だが、「慰安婦報道についても説明させていただきます」と言及したのには驚いた。8月5、6日付朝刊で掲載した慰安婦問題についての検証特集が、各方面からさんざんな批判を浴びたため、いずれ会見を開くとは思っていた。が、このタイミングだとは思っていなかったからだ。

同時に、ひねた見方をすれば「うまい手だな」とも感じた。なぜならこの日の会見の名目は、あくまで吉田調書について。集まった記者は原発を担当とする社会部の記者も多く ...

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