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社員参加型PRの効果

社内調整と著作権・版権がポイント、PR動画制作のノウハウと注意点

山下悟郎(モバーシャル 取締役CMO)

社員参加型PRの代表例として、今回の特集では社員出演動画を多数取り上げている。ところが制作にあたってはゴール設定や社内調整、著作権などのノウハウや知識が必要だ。企業動画を多数手がけてきた、モバーシャルの山下悟郎氏が解説する。

「表現ありき」は失敗のもと

本稿では、実際に広報担当者が動画を制作する際に特に注意すべきポイントを解説したいと思います。実行にあたっては①社内調整 ②著作権と版権保有という2つのポイントがあり、詳しくは後述しますが、まずは基本となる企画段階で押さえておくべき点について考えていきます。

動画の企画制作を進める上では、カメラなどの機材や撮影のテクニック、演出、編集ソフトでの加工、技術的な面はもちろん大切ですが、最も重要なことは「何のためにこの動画を作るのか」という目的を社内できちんと設定し、共有するということです。

ありがちな失敗としては「あのCMっぽいトーン&マナーで」「ドラマ仕立てで、泣ける動画を」「グラフィックのカッコいい動画にしよう」といったように、表現方法ありきで企画を立ててしまうこと。特に今回、特集内で「社員が出演する企業動画」の成功例が多数取り上げられていますが、その手法のみを真似てみても同じような成果が得られるとは限りません。動画で成果をあげるためにも、まずは企画の基礎を押さえて進めていきましょう。

視聴ターゲットは社内? 社外?

企画から制作までの具体的なフローとしては、基本的なことではありますが図1のように5W1Hの視点で考えることをお勧めします。

この中で最初に考えなければいけないのは「Why」、つまり先述の「動画制作の目的」です。「企業や商品ブランドの認知向上」「製品価値の伝達」「利用シーンの提案」など、達成したい目的をしっかり考えます。次に社内向け・社外向け、年齢・性別といった視聴対象を設定します(Who)。

以上を踏まえて「いつ」「どこで」視聴者に届けるかを考えます。特に社外向けであればYouTubeのような動画共有サービスなのか、オウンドメディアか、SNSか。社内向けであれば社内報やメールでの配信、DVD化してイベントなどで活用するといった「Where」の視点で、どの時期の、どんなタイミングで動画を見てもらうのかを考えます(When)。

スケジュール調整の観点からも、「いつ」「どこで」を事前に決めておくと、制作スケジュールを逆算し、社内調整や制作準備をスムーズに行うことができます。撮影時のトラブルや社内チェックの遅れ、公開間際の混乱やミスを大幅に軽減することが可能です。

そして最後に「What」「How」。動画でPRする内容を決め「ハウツーなのかブランディングなのか」、また「どんな表現方法を用いるのか」といった中身を考えていきます。予算やスケジュールと相談しながら、目的を達成するために実現可能な範囲で考えていきましょう。

PR動画は社内調整事項が満載

ここからは広報担当者が注意すべきポイントを具体的に説明していきたいと思います。私の今までの経験上、PR動画は他の動画と異なり、社内での調整事項が多いように感じます。社内の様々な部署の方を巻き込まなくてはならないケースが多々あるからです。

もしもあなたの会社で社員出演動画を制作する場合に、調整事項として主立ったものは3つあり、①動画のチェック ②出演者の調整 ③出演者の退職時および商品・サービスなどが変化した場合の運用ルールの決定があげられます(図2)。各注意点を見てみましょう。

(1)動画の社内チェック

広報部門内はもちろんのこと、場合によっては他部署を横断してチェックを進めなければならないケースもあります。ポイントとしては、

1.企画段階から他部署と映像の内容を共有、確認しながら進めておく
2.初稿から完成までの映像確認フローとスケジュールを事前に明確に決めて共有しておく

以上を押さえておかないと「撮影時に必要な情報やモノが届かない」「後々思わぬ修正が入り納期の間際になって慌てることになる」といったトラブルが起こってしまいます。「当初と意図が異なる動画になってしまった」「追加コストがかかった」「納期が遅れて予定していたタイミングで配信できなかった」といった事態にならないよう、事前に確認と根回しをした上で進めましょう。

(2)出演者の調整

PR動画においては、社内のスタッフが登場するケースがよくあります。インタビューや業務風景を撮ることが特に多いのではないでしょうか。注意したいポイントは下記です。

1.事前に出演者(および出演者所属部署)と動画の意図と内容を確認した上で、インタビュー内容の質問と回答を確認・決定しておく
2.撮影当日の服装を事前に確認しておく

社員はプロの役者ではありませんし、本来の業務の時間を割いて撮影時間を捻出するので、「なかなかモチベーションが上がらない」「顔を出したくない」「恥ずかしい」といった声が聞かれます。このような事態を回避するには、事前に出演者(および出演者の所属部署や上司)に動画の意義と内容を伝え、業務として取り組んでもらうようにしましょう。きちんと共有、理解してもらうことが、制作物のクオリティを高めることにつながります。

インタビューにおいては、事前に質問内容の読み合わせを行い、どのような回答が好ましいかを確認し、当日の回答をある程度決めておくとスムーズです。丸暗記して臨むケースもありますが、あらかじめ回答の中に入れたいキーワードを準備しておき、それをもとに自然に答えてもらうのがお勧めです。また、緊張のあまり撮影がうまくいかないという事態に備え、少し長めに時間を確保しておきましょう。

撮影当日は、会社としてふさわしい格好で出演準備を進めてもらうことも重要です(ネイルやメイク、アクセサリー、髪型は特に注意)。ここで忘れがちなのが、服装の季節感。長期間にわたり活用する場合は、一年を通していつ見ても違和感のない服装を選ぶと自然な仕上がりになります。

(3)出演者の退職時や商品・サービスが変化した場合の運用ルール決定

盲点になりがちですが「動画に出演した社員が退職してしまう」というケースもありえます。退職した社員が映っている動画を使い続けるのは、会社としても好ましくない場合が多いですし、退職者から動画の取り下げを依頼される可能性もあります。事前に使用場所や範囲、期間、退職時の活用に関して、運用ルールの確認書類などを取り交わしておくのも一手です。

あるいは、動画内に登場した商品・サービスが変わってしまう事態も考えられます。古い情報のまま使用し、視聴したお客さまが混乱してしまうことのないよう、一定のルールがあると判断しやすいでしょう。再編集して公開する可能性がある場合は、制作段階でのちに修正が入る箇所をあらかじめ予見して構成しておくこともできます。

なお、オフィスビルに入っている企業では撮影許可が必要な場合が多々ありますので事前確認が必要です。

「権利」関係のトラブルも注意

「著作権侵害で制作した動画が消されてしまった」「版権を持っていなかったせいで、後々思わぬコストが発生してしまった」といったトラブルもよく耳にします(図3)

(1)「著作権」トラブルを防ぐ

皆さんはファレル・ウィリアムスの曲「Happy」に合わせて企業や団体が踊る動画をご存知でしょうか? 日本でも少し前に流行った「恋するフォーチュンクッキー」のダンス動画のように多くのユーザーに制作・視聴されました。しかし、動画を公開した後に音源をめぐってトラブルが起きてしまったという話も聞こえてきます。

最近では宮崎市が公開した「Happy動画」について、音楽会社に無断で公開したとして問題となりました。報道によれば、「Happy」の場合は「個人やそれに準ずるグループは無償使用を認めているが、企業や営利団体、行政がPR目的で使用する場合は原則使用料が発生する」とのこと(9月3日付、毎日新聞)。

著作権は非常にデリケートな問題です。特に注意したい項目としては、出演者・キャラクター・ナレーション・グラフィックなどの効果素材・挿入写真(イラストやロゴ)・BGM・効果音です。利用範囲は権利保有者によって異なりますので事前に確認し、トラブルは避けるようにしましょう。

(2)「版権」は自社で保有すべし

動画の制作は、まだまだ外注で行う企業がほとんどかと思います。代理店が間に立つ場合、制作会社に直接発注する場合、いずれも気をつけたいのが映像の「版権」の所在です。当然ですが、版権はなるべく自社で持つことをお勧めします。

「DVDで使っていたがウェブにもアップしたい」「映像を再編集して広告としても活用する」「キャプチャーした画像をオウンドメディアで利用する」といった二次的利用の際、「版権が制作サイドにあって、使用料金を支払わなくてはならない」「動画を少し修正するだけなのに高額なコストがかかってしまう」ということになる場合があります。思わぬ事態にならないためにも、事前に納品書や契約書で、保有者を明確にしておくとスムーズです。

このように動画は順序だてて注意点に気をつければ、スムーズに制作・活用できます。制作はもちろん大変な面もありますが、企業や社員の想いを形にできる、とても楽しい作業でもあります。動画をきっかけに、商品への理解を深めたり、企業課題の解決につながったり、視聴者の心が動くきっかけになることは、とても意義があることだと考えています。読者の皆さんの広報活動において、動画の活用がうまくいくことを祈っております。

モバーシャル/MOVAAA 取締役CMO
山下悟郎(やました・ごろう)

2007年映像プロダクション、モバーシャルのスタートアップより参画。ウェブ動画黎明期より、映像プロモーション企画・コンテンツ設計を担当。2014年メンバーズと動画マーケティング支援会社、MOVAAA(ムーヴァー)を設立。

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