危機が発生したとき、その後の広報対応によって世の中に与える印象は大きく変わる。本連載では、ある時はメディアの立場で多くの危機を取材し、またある時は激動の時代の内閣広報室で危機対応を行った経験を持つ下村健一氏が、実際にあった危機の広報対応について説く。
また新しい年度が始まった。この機に組織のトップのメッセージを社内広報することは、構成員を鼓舞する大切なツール。特に、組織が疲弊している危機下であれば、尚のことだ。
実は3年前の4月1日に、そんな社内広報効果を今こそ生かそうという働きかけが、首相官邸で非公式に行われていた。まだ東日本大震災の発生から20日。あまりの被害の大きさに、対策は打っても打っても追いつかず、「政府は何をしているんだ!」という国民の非難の声がジワジワと高まりつつあった。どの省も通常業務体制に戻れぬままに慌ただしく新人の入省式を迎え、官僚達の疲労はかなり蓄積していた。しかし、原発事故の先行きも復興着手の兆しもまだ全く見えず、彼らを鼓舞するような客観情勢は皆無だった。
ならば、せめて《言葉》の力を借りて組織を奮い立たせるしかない。官僚機構のトップたる総理大臣から、国民向けとは別に全政府職員に向けて、激励の特別メッセージを発しよう─。日頃から文書作成を担当している官邸スタッフA氏と、当時内閣広報官室にいた私は、そう思い立ってこんな文面の私案を走り書きしたのだった。