新しいアイデアや事業は、社内のコミュニケーションの場から生まれることも少なくない。こうした作用を生み出すスペースを設けている企業のオフィス哲学とは?

大きなガラス窓と吹き抜けから自然光が降り注ぐ執務エリア。天井に照明はなく、デスクに設置しているバータイプのアップライトから天井に向けて間接照明を照らす仕組み。
都心の喧騒から離れた、ゆったりとした住宅街の一角に現れる斬新な建物。一歩中に入ると、白と黒を基調としたスタイリッシュな空間が広がる。高い吹き抜けやガラス窓から自然光がたっぷりと入る、明るいオフィスだ。これは、東京都内の近隣5市の農業協同組合が合併して誕生した東京むさし農業協同組合(JA東京むさし)の本店オフィス。いわゆる"農協"のイメージとはかけ離れた洗練された空間だ。
インパクト大の外観は、昔から農作業に欠かせない「竹かご」をイメージしたもの。「ECOかごルーバー」と呼ばれる、かごを編んだような日よけが直射日光をカットし、空調負荷の低減に貢献している。
特徴的なのは、タスク・アンビエント方式によって約60%もの消費電力削減が実現したという執務エリアの照明。天井照明は一切用いず、天井に向かって照明をあてる仕組みで部屋の明るさを確保。人の1日周期の生体リズムにあわせて明るさが変化し、季節や時間帯によって自然光にあわせるように照明の色が変化する。必要に応じて各デスクに取り付けられた手元ライトで明るさを補っている。
また、執務エリアの中央に位置する、用途に合わせて自由に形を変えることができる「マルチストリート」と呼ばれる多目的スペースもポイント。可動式のガラスパーテーションやホワイトボード、透け感のあるカーテンなど圧迫感のない"仕切り"を用い、規模や内容に合わせたフレキシブルな使い方ができる。
自然と向き合う農業をサポートすることが役目であるからこそ、ガラスを多用した透過性の高い空間で、自分たちも日々自然と向き合いたいと考えた。「これまで500人を超える見学者が訪れました。(建物が完成して)工事の足場が撤去され、外観が見えると"あの建物は何だ?"とツイッターなどで話題が飛び交いました。オフィスそのものが、新しい農協の姿を体現していると思います」(総務課 本多聡氏)。