自社や商品の知名度を高めたい広報と、世の中のニュースをタイムリーに伝えたい記者は、本来同じ目的を持つパートナー。とはいえ、「あの会社の広報はいい」、さらに「〇〇社のAさんは信頼できる」と窓口に指名してもらえる広報とそうではない広報がいるのは確かだ。記者が推薦するベテラン広報に「指名される広報への道」を聞いた。

守りから攻めへ転換
玉川髙島屋の企画部門から広報に異動したのは9年ほど前。当時は日本経済の状況が厳しく、どの企業も経費削減に必死でした。宣伝費にコストをかけられない分、いかに話題をつくり、集客につなげていくか。そう考えた時、“攻める広報”ができていないことが課題になりました。というのも、髙島屋は過去に不祥事があったこともあり、危機管理など“守り”が主体の広報になっていたのです。現在の広報・IR室には、企業広報、社内広報、IRに加え、私が所属している「PR」があります。「PR」は商品プロモーション、店舗集客など営業支援の広報。まさに、待望の“攻めの広報”を実践する部隊です。
実践しながら広報を学んだ身として大切だと思うのは、情報の質を上げること、それに尽きます。個人的にどれほど記者と親しくなったとしても、こちらからお渡しする情報の精度が高くなければ関係は成立しません。百貨店の場合には、毎年やってくる『歳時記』をいかにPRネタにするかが重要です。今年らしい新しい切り口は何か、最近の消費動向や売れ筋アイテム、その背景にある情報をいかに提供できるかによって広報効果は違ってきます。
たとえば、ここ数年の傘の売上のピークが5、6月なのは、「雨傘より日傘のシェアが上回ってきた」ため。晴雨兼用など多機能の日傘が増えたことや、男性が日傘を使うようになったことも背景にあります。ランドセルの発売ピークは夏休みの時期ですが、その背景には、祖父母が帰省した孫のためにプレゼントする商品になったことがあります。このような小さなトレンドの変化は、あえてリリースに書かず、「あなたに教えます」というスタンスで記者に伝えます。今なら、クリスマスやおせち料理に関する「今年ならではの切り口」を自分なりに分析しています。どれだけ層の厚い情報を持って提案できるかが、記者からの信頼度に反映されるのではないかと思います。
記事から逆算する
「載ればラッキー」と言われる広報ですが、私はどのメディアのどのコーナーに出るか、最終形を想像して売り込むべきだと考えています。そのためには、「相手を知ること」が大事です。毎日、新聞全紙(5大紙と業界紙)に目を通しますが、自社が掲載された記事はもちろん、それ以外に気になった話題、使えそうだなと感じたネタをスクラップしています。すると、どの新聞のどのコーナーをどの記者が担当しているかを把握できますし、その記者が最近どんなことに興味を持っているかが見えてきます。