ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人社長を経てカルビーの経営改革を進める松本晃会長兼CEOは、「企業は広報なくしてあり得ない」と広報の重要性を強調する。それは危機の際に表れるという。

危機対応チームの中心は広報
広報についての意識が低いトップマネジメントが多いように感じます。広報は誰にでもできて、何となく楽しそうな仕事だと思っている。そんなセンスでうまくいくはずがありません。これからの企業は広報なしには成り立ちません。まずトップ自身がそう認識すべきです。
前職のジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)時代も今も、広報部門のトップは優秀な人材に任せてきました。求めるのは、我々のステークホルダーと正しくコミュニケーションが取れることです。言葉で言うのは簡単ですが、知識とインテリジェンス、冷静さが求められる、きわめてレベルの高い仕事です。広報は必ずしも攻めだけではありません。不祥事や問題が起こることもありますから、守りについても強くなければなりません。
J&Jは、クライシスマネジメント(危機管理)で世界一の会社と言われ、さまざまなノウハウが蓄積されています。そのきっかけの一つと言えるのが、1982年に米国で起きた「タイレノール事件」です。解熱鎮痛剤「タイレノール」に何者かによって毒物が混入され、7人の死者を出す事態に発展してしまいました。そこでJ&Jは、「8人目の被害者を絶対に出してはならない」と、テレビCMや新聞広告などによる周知から商品の回収、毒物の混入を防ぐパッケージの開発など、ありとあらゆる手を打ったのです。これらの取り組みが早期の信頼回復につながりました。もちろん、当時のCEOが優秀だったこともありますが、危機の際にトップ1人ですべてができるわけがありません。そこで欠かせないのが広報の存在です。
カルビーでは昨年11月、生産設備の破損でポテトチップス「堅あげポテト」の一部製品にガラス片が混入する事件が発生しました。発覚した当日夕方にプレスリリースを行い、534万袋の自主回収に踏み切りました。このときの手順はJ&J時代の危機対応と同じです。マネジメントと関係部署、広報らのメンバーが集まり、何から手を打つかを決め、順序立てて実行していきました。その際に中心となるのが広報部門です。
大原則は、あらゆる情報を開示すること。問題が起きた時に、「あれは言うが、これは言わない」と考え始めると必ず失敗します。正しいことを正しく発信することが先決で、その上で「上手な伝え方」を考えればいい。今回のケースもあってはならないことですが、幸いにも素早い対応が早期の信頼回復につながりました。