今年7月、大きな物議をかもした、楽天による特定アナリストの名指し批判とプレスリリースでの「出禁宣言」。企業IR担当者にとって、業界分析、企業分析の専門家であるアナリストとのコミュニケーションは避けて通ることのできないものだ。“事件”を起点とし、企業IR担当者とアナリストのコミュニケーションについて考えてみたい。
楽天が特定のアナリストの出入り禁止を公表した適時開示文書。
リリースで“出禁宣言”
ジャスダック市場に上場するインターネット通販大手の楽天が、三菱UFJモルガン・スタンレー証券(以下、三菱UFJMS証券)のアナリストを名指しで批判し、「出入り禁止」にした。楽天は7月に事案について「プレスリリース」で発表。これには三菱UFJMS証券側も、「発行体が特定のアナリストのレポートについてプレスリリースまで出したことについて驚いています」とコメントしている。
楽天が問題視し、指摘したのは、三菱UFJMS証券のアナリストによる6月21日付のレポートで、楽天の財務状況などについて執筆したもの。
楽天によると、このレポートは(1)事業別の利益分析がほとんどなされておらず、分析が極めて浅い、(2)業績予想に用いられた法人税率の根拠が不明、(3)株主価値の算出方法がファイナンス理論の観点で誤っている、などの理由から「分析に問題がある」と指摘。あらためて、同アナリストと直接面談して修正を求めたが、面談後の7月1日付で公表されたレポートでは、(2)業績予想に用いられた法人税率が修正されたのみで、他の問題点については改善されなかった。楽天は、「分析の貧弱さについては改善が見られない」、「根拠が極めて貧弱」と批判。さらに文書では、「同氏による過去および将来のレポートは当社への投資判断の一助にはなりえないと判断しており、投資家の皆さまにおかれても参考とされないようお勧め致します」と異例の推奨を行うばかりか、「今後同氏の取材については一切お受けしません」と出入り禁止を明言した。
アナリストレポートの内容をめぐって企業側と証券会社でトラブルとなることはしばしば見られるが、今回のケースは企業側がレポートの内容を批判しただけでなく、投資家に対してレポートを参考にしないよう呼びかけるなど、異例の事態。アナリストがカバーしている企業から出入り禁止となるケースはこれまでもないわけではなかったが、アナリストは証券取引等監視委員会から偏った情報提供を行わないよう、「独立性」を保つように指導されている。これに対し、企業側も「特定のアナリストにしか面談しない」などのフェア・ディスクロージャーに反する行為を禁じている。
上場企業にはさまざまなアナリストが訪れ、その会社を独自に分析したアナリストレポートを発表する。アナリストレポートは、個人投資家や機関投資家の目に触れ、その企業の経営状況の貴重な判断材料のひとつとなり、内容によっては株価に影響することもある重要なもの。だからこそ、企業側はアナリストレポートの内容に対して敏感になり、時に苦情が出ることも。ただし、それは今回のようなプレスリリースを使ったものではなく、証券会社やアナリストに対し“直接通告”されることが通常であり、あくまで水面下のやり取りの範囲内で収められることが多い。
金融業界のみならず、大きな波紋を呼んだこの事件。ツイッターなどでも多くの意見が飛び交い、企業IR担当者とアナリストとのコミュニケーションをあらためて考えるきっかけになったことは事実だ。事件に対して自社、そして個人としてどう考えるか、各社企業IR担当者にヒアリングした。そこで聞かれた意見がDATA1のもの。ほとんどの企業が「実態を知らないため、公表されている情報のみでの判断となるため、必ずしもフェアな意見ではないが」とした上で、賛否両論の声が聞かれた。