予算や経験、ネタがなくても工夫次第で記者発表に来た記者を満足させることはできる。実践編では、社内リソース、無料で使えるスペースを活用した"はじめての"記者発表の事例を紹介する。
英語がネイティブのトップは、あえて日本語で事業紹介し、「言葉の壁を越える/崩す」という自社の理念を体現して見せた。
ランチ時間、社員が記者と談笑
7月に開催したのは、議題の最後に「従業員紹介」と「ランチ(ぶら下がり)」があるユニークな記者発表。
7月中旬、東京都渋谷区でユニークな記者発表会が行われた。ロバート・ラングCEOの事業説明後、30人ほどの記者の前に登場したのは国籍の異なる社員たち8人。自己紹介後、記者たちにはランチボックスが配られ、食事をしながらの社員への「ぶら下がり」取材に突入した。
主催したのは、クラウドソーシングを使い、コンテンツを翻訳したい人(企業)と個人の翻訳家を結ぶ新しいサービスを提供するGengo(ゲンゴ)。2008年創業のベンチャー企業で、広報を担当するプロダクトマネジメントヴァイスプレジデントの徳生裕人氏の本職は技術開発責任者だが、「これまで口コミで付き合いが広がってきたメディアに、分かりづらい事業をきちんと説明する機会を持ちたい」と初めての記者発表を行うことにした。
2月にユーチューブとパートナーを結び、4月には大規模な増資、5月にはマンションの一室から"新オフィス"に移るなど、少しずつネタもたまっていた。
「当初は、社員の家族や取引先、投資家らを招いた新オフィスお披露目パーティーの実施だけを考えていました。その後、同じ日の昼に記者向けの事業発表会をやったらどうかというアイデアが出て、もし発表会で関心を持っていただけたら夜のパーティーにも参加いただこうということになりました」。実は、徳生氏にそのアイデアをくれたのは、元同僚の広報担当者。冒頭の従業員紹介のアイデアも元同僚から得たものだ。同社の社員は30人ほどだが、その7割が外国人で12の異なる国籍を持つ。昨年、社員の多様性を伝えようと26カ国の字幕付きリクルーティング動画をつくってユーチューブにアップしたところ、NHKニュースで紹介され、再生回数が5万回を超えた実績もあった。記者からは「役職者の紹介はあっても、従業員紹介は珍しく、その会社のカラーが見えて面白い」、「多言語を売りとする企業ならでは」と概ね好評。忙しい記者のためにと用意したランチボックスで、トップや従業員と話す時間がたっぷり用意されたことも効果的だったようだ。