情報を伝える時の基本は、相手の立場を想像すること。記者は時間がない中で、たくさんの記者発表からその企業を選んで足を運び、記事にしたいと考えている。発表構成や発表者はもちろん、広報の仕切りも重要だと記者たちは指摘する。
プレゼンとFAQは半々に
朝日新聞経済部の記者で繁忙期には毎日2~3の企業の記者発表に出向く高重治香氏はスペック不足にならないよう気を付けてほしいと注文をつける。「一番欲しいのは、トップの率直なコメントと数値データ。その日に記事を書く場合、時間が限られる中で、他の記事候補にはない本音のコメントをとることで、自分が書いた記事をデスクに採用してもらいやすくなります。記事にしようと出席したのに、見出しにとれるような言葉やデータがなく、掲載できない記者発表は残念です」。西日本新聞東京支社報道部の記者・前田淳氏も、リリースは広報で完結するのに対し、記者発表にはトップや現場の熱量を直接感じることができる貴重な機会と考えている。ところが実態は、「社長は挨拶だけで、プロジェクトの説明や質疑応答には担当部長などが対応する企業もある」。せっかく社長が出席しているのに、発言が"挨拶程度"ではカッコ付きのコメントに入れる台詞がとれない。「九州に本拠地を置く新聞社ですから、九州のプロジェクトだと楽しみに参加しますが、社長が詳しいことを知らなそうな様子を見ると、会社として重要なマーケットと捉えていないのかな、とガッカリさせられることもあります」。
よいコメントを引き出すためには、発表会の式次第、進行も大事。前田氏は、企業のプレゼン後、記者が発表者らに話を聞くことができる「ぶら下がり取材は必須」と話す。発表者の本音がより引き出しやすく、質疑応答が途中で打ち切られた場合には補足情報を得られるラストチャンスになる。実際には、これまでさまざまな"失敗パターン"の発表会に参加してきた。企業プレゼンに30分、タレントトークとフォトセッションに30分と時間をかけた一方、記者が聞きたいことを聞ける質疑応答は5分、ぶら下がりもなしで記者の反感を招いたもの。逆に、慣れない企業が事業説明や店の見学会、社長プレゼンとプログラムを詰め込んだうえ、途切れるまで質疑応答に対応して大幅に想定時間をオーバーし、記者を困惑させたこともある。「以前、社長だけでなく広報担当者まで、発表と質疑応答を終えるとサーッと帰ってしまって驚いたことがありました。企業側の説明と質疑応答の時間配分は半々くらいが理想ですし、ぶら下がりもあった方がいい」。
海外企業の記者発表にも多数参加してきたジャーナリストの神尾寿氏は、欧米と日本では、スタイルがかなり異なると話す。「質疑応答にたっぷり時間をとるのが欧米スタイル。プレゼンよりも長めにとられていることもあります。日本では、メディア側も皆がいる前で質問することを避ける傾向があり、その形式には慣れないでしょうし、時間を使いきれないこともあるでしょう。日本で実施するなら囲みやラウンドテーブルを設けるべき」。著名人を呼ぶことが少ないのも欧米企業の特徴。「プレゼンと質疑応答の間は、その企業の商品やサービスを理解してもらうため、記者発表のいわば核となる部分。それなのに、日本企業はその合間に"ほとんど中身のない"芸能人のトークセッションを入れることが多く、時間の無駄だと思うことがありますね」。確かに、記者発表と質疑応答だけでは、テレビなど一部メディアにとっては絵が足りないということもあるが、「(芸能人を呼んだトークセッションを)やるなら最後の余興でいいでしょう」とバッサリだ。