ユーザー同士で魅力を伝え合うファンサイト
モレスキンの愛好家「モレスキナー(Moleskiner)」によるファンサイト「モレスキナリー」は、ブランドが介入せずとも、ファン同士が使い方やカスタマイズについて伝授し合う場として機能している。
企業やブランドの持つメッセージや世界観を伝える手段として重要な役割を担うブランドツール。一口にブランドツールと言えど、目的によってその種類や手法もさまざま。特にグローバル規模で展開する企業やブランドが用いるブランドツールは緻密なコミュニケーション設計がなされ、ツールを用いた情報発信の仕方も多岐に渡る。グローバル企業が消費者との接点として用いるブランドツールはどのようなもので、そこにはどんな意図や背景があるのか。ひとつひとつのツールをもとに掘り下げる。
「伝説的ノートブック」とも称され、世界各国で人気を集めるイタリアのノートブックブランド"モレスキン"。ヘミングウェイやピカソなど多くの著名な作家や芸術家が愛用していたエピソードとともに知られる。フランスの製本業者によって、100年前から製造されてきたノートが原型となり、1997年に復刻されてから現在にいたるまで愛用者が増え続けている。
日本でも高い人気を誇るモレスキンのノートだが、ポケットサイズで1890円、ラージサイズで2730円とノートにしては高価格。さらに、タイアップを含め、一切広告しない方針にも関わらず日本でも高い人気を誇る背景には、ユーザーの口コミを誘発させるための工夫がある。
口コミ誘発の大きな軸となっているのが、モレスキンファンによるサイト「モレスキナリー」。もともとはモレスキンを愛用する1人のアメリカ人が立ち上げたブログが原型で、モレスキンファンのコミュニティと化している同ブログの動きに目をつけたブランドが、ファンサイトのプラットフォームとして契約。それが各国でローカライズされ、日本には4年前に上陸した。「モレスキナリーを通じてコアなユーザー同士がウェブ上でつながり、今では大きなコミュニティに成長しています。あくまでファンサイトという位置付けなので、サイト上で行われているコミュニケーションにはブランドとして一切介入していません。ユーザー同士のコミュニケーションを促す"場"のみの提供というスタンスこそが、コミュニティを育てる大きなポイントだと考えています」(販売元のワーキングユニット・ジャパン セールス&マーケティングディレクター 丸山輝美敏氏)。
コミュニティの活性化を背景に、日本版「モレスキナリー」の管理人が共著者となった書籍が2010年に登場。モレスキナリーを通じ、ユーザー同士が"マイ・モレスキン"のカスタマイズや活用術を紹介しあうコミュニケーションをコンテンツ化し一冊にまとめたものだ。出版社からファンサイトに声が掛かったもので、ブランドから出された本ではないという点も特徴。「書籍をきっかけに、コアなファンだけでなく新たな層が手に取るケースも増えました。販促ツールとして(書籍を)店頭で使う機会も多い。もしこれがブランドから出されている公式のブランドブックだとすると、ここまで着目されていないはず。あくまでユーザーによるユーザーのための本、という位置付けに面白さがあると思います」。