地方の中小企業がブランディングで成功したケースとして注目を集める中川政七商店。3年後の2016年に創業300周年を迎える同社で仕掛け人となったのが13代目の中川淳社長。中小企業向けのコンサルティングも手掛ける中川氏が語る、お金をかけないブランド戦略とは。
「お金を払って掲載枠をもらうという広告に、価値を見出せない」と話す中川氏。「大企業ならテレビCMを打つこともブランディングの一つのやり方です。でも中小企業にはそれができない。それに、今の時代、消費者は記事風広告やタイアップは見破ります。そこにお金をかけるなら、ブランドイメージを上げるためにもっと他のことをすべき」と強調する。
中小企業こそ広報が必要
創業300年の同社には、数百件にのぼる仕入れ先がある。ところが例年、そのうち3~5件から「廃業のごあいさつ」が届くという。通知もできずに店を閉める人を含めると、伝統工芸の業界はかなりのスピードで縮んでいる。
「これが20年続けば、うちのものづくりはできなくなる」との危機感からスタートさせたのが、全国の伝統工芸業者の経営コンサルティング事業。関与先は陶磁器、鞄、包丁類、カーペットなどのメーカーで、大きくても年商数億円規模の零細企業だ。「もちろん、報酬は大した額ではありません。大手のコンサル会社なら受けないでしょう。でも、結果的にうちのものづくりを助けてくれるパートナーになってほしいから、みなさんの再生に手を貸しているんです」。業務や商品政策を見直し、経営が回復したら中川政七商店が品物を仕入れて販売する。ここ数年の同社はそうやって商品の幅を広げてきた。
そんな中で実感しているのが、お金をかけずに自社ブランドを世に広める広報活動の重要性。外から見た時に(自社やブランドが)どう見られるかという客観的な視点こそ、自社ブランドを構築するにあたり欠かせない。「ブランドをつくるには、単に売上を上げるという感覚だけでなく、客観性こそが何より大切。相手を引き寄せるにはどんな要素が必要か、それを見極めることが必要です」。
中川氏自身、ブランドイメージを創り上げるにあたり、外からの視線は常に意識してきた。たとえば服装ひとつとっても着物はおろかスーツも着ない。ノーネクタイにジャケット、パンツというカジュアルないでたちを貫く。「創業300年の老舗というと、それだけで伝統という重いバックボーンがつきます。古い歴史を持ちながら、今の時代にも柔軟に対応し進化している、というブランドイメージは、社長である自分を通して見られることも少なくない。服装もコミュニケーション、広報手段のひとつだと考えています」。