自社商品を広めるにあたり、どんな広報活動が必要なのか。主に中小企業や地方への広報アドバイスに数々の実績を持ち、「お金をかけない」広報の手法に定評のあるTMオフィスの殿村美樹氏が、中小・地域企業のための広報活動について説く。

愛知県小牧市で精密板金をおこなっている家族経営の小さな町工場「丹羽シートメタル」。愛犬家の声をもとにつくった「壊れない犬のトイレ」が大ヒットし、多くの取材が舞い込んだ。ホームページ上の「メディア掲載実績」コーナーでは、社長自ら掲載記事について解説している。
予算ゼロでも広報はできる
広報(PR=Public Relations)は長い間「大企業にしか必要とされないコミュニケーション術」と言われてきました。なぜなら大企業は膨大な数の組織や消費者と取引関係があるため、きちんと自己PRして好意をもってもらわなければ商品が売れなかったり、株価が下がったりするからです。
これに対して、日本企業の99.7%を占める中小企業は「プライベートカンパニー」と言われるように、株は非公開で、大企業の傘下で限定した組織としか取引しないことが多く、積極的に自己PRする必要はありませんでした。
しかし"失われた20年"といわれる長い不況と、急速に普及したインターネットが時代を変えてしまいました。大企業の傘下で生きていける中小企業が激減し、どんな情報もネット検索で調べることが当たり前になったのです。
それに伴い、中小企業の自立が叫ばれ、どんなに小さい会社でもホームページを立ち上げて自己PRしなければ、その存在さえ疑われてしまう時代になりました。どんなに「うちは自己PRなど必要ない」と意地を張っても、「ネット検索してもヒットしない会社って、本当に存在するの?」などと言われてしまうので、事実上、ビジネスに支障をきたすようになってしまったのです。
そんな中、自己PRの経験がない中小企業の中には、とりあえずお金がかからない広報に取り組む企業が多くなりました。広報は本来、戦略あってこそ成果を出せるものですが、特に中小企業の中で、そこまで勉強している企業はほとんどありません。戦略もビジョンもなく、ただ「少しでも広告の代わりになれば」と考えて、ひたすらプレスリリースを作って、知り合いの新聞記者やテレビのディレクターに売り込みに行くといった、"カタチだけの広報"を行う企業がどんどん増えていきました。そして広告のようなプレスリリースが氾濫し、何の成果も得られない"砂をかむような虚しさ"を味わう広報マンが増えたことで、「やっぱり広報にも、広告のようにお金をかけないと成果が出ない」と言われるようになり、記事風広告やタイアップ取材などを「広報」と思い込む人が増えていきました。
しかし、何度も言うようですが、そもそも広報は戦略あってなりたつもの。きちんと目標をたてて取り組めば、予算ゼロでも広報は十分に可能で、成功すれば新しいビジネスへのイノベーションだってできてしまう大きな可能性があるのです。
次から、広報活動で成果をあげるための具体的なポイントをご説明しましょう。
「太陽の戦略」を成功させる
私は、広告と広報の違いを、いつもイソップ童話「北風と太陽」に例えて説明しています。
この童話は、北風と太陽が旅人のマントを脱がす勝負に挑むという話で、北風が強風で吹き飛ばそうとしたら旅人はマントが飛ばされないように抵抗したのに対し、太陽が照らして温めたら自らマントを脱いで太陽が勝ったというストーリー。私はこの話をもとに、北風を「お金のチカラで自分の主張をぶつける」広告で、広報は「周囲を温めて、人が自ら行動を起こす空気をつくるもの」と説明しています。
そして、人が自ら行動を起こす空気をつくるために大きな力になってくれるのが新聞記事やテレビ番組であり、単に新聞やテレビを味方につけるためにはプレスリリースなどのツールを作ったらいいというものではなく、自社そのものが取材したくなる企業になるしかないとアドバイスしています。つまり、マスメディアが取材したくなる企業=時代が求める企業になるということであり、それこそが、自社の強みを時代の価値観にマッチさせてビジネスを発展させること。言い換えれば戦略とビジョンそのものなのです。