日本総研が2023年9月に設立した「チャレンジ・カーボンニュートラル・コンソーシアム(CCNC)」。日用品や食料品のメーカーを中心に、小売・流通、その他事業を展開するパートナー企業が集まり、小売・流通の店舗やアプリを活用しながら、販促と脱炭素の両立を目指す取り組みを行っている。今回はCCNCに参画する5社が集まり、議論。スギ薬局で行った実験の結果を振り返りながら、CCNCに属する意義を考えた。
1社だけではできないことが実現できるのがCCNCだと思う
──皆さんがCCNCで担っている役割を教えてください。
杉山:スギ薬局グループは今年2年目の参画です。店舗を有する流通の立場として、店頭やアプリを活用し、環境配慮と販促の両立における実証の場を提供しています。昨年度は当社が展開する東京、名古屋、神戸の3店舗で実証実験を実施しました。
秦野:我々、三幸製菓も今年で2年目の参画になります。CCNCにおいてメーカーが担う役割はお客さまが実際に手に取る商品をつくること。環境へ配慮した商品を、生活者自身が見て、食べて、考えるきっかけをつくることが役割だと考えています。
松田:アサヒグループジャパンも2年目の参画です。我々が担うのはCCNCのメンバーと、脱炭素と販促が両立する方法を考え、その方法を商品で実証していく役目です。
後藤:TOPPANは今年度からCCNCに参画しました。当社が担うのは大きく2つ。パッケージの領域と生活者へのコミュニケーションの領域です。パッケージ領域では環境に配慮した素材を使用するのはもちろん、購買に繋がるパッケージ開発を進めたいと思っています。さらに、脱炭素の価値を生活者に正しく伝えるコミュニケーションを意識したいと考えています。
藤野:KREOも今年度初めての参画です。当社は店頭販促を支援する会社。CCNCでは売り場企画の効果検証まで担い、脱炭素と販促が両立することを実証していきます。
──皆さんはCCNCの存在意義は何だと感じますか。
杉山:私はスギ薬局グループでサステナビリティ推進を担当していますが、CCNCでの活動が当社の脱炭素への取り組みを推進するきっかけになっていると感じます。というのも、流通小売業にとっては足元の売上が重要であり、脱炭素のような長期的な視点を組み込むことに難しさを感じていました。しかし、CCNCは環境配慮と「販促」を両立しようとする団体。脱炭素に取り組みながら、顧客の理解を深めようとする連携はとてもありがたい存在です。
秦野:「1社では成し得ないことが実施できる点」は価値ですよね。脱炭素の取り組みはあらゆる企業が行っていますが、1社で伝えられる熱量や、実現できることには限界がある。ですが、CCNCでは脱炭素という1つの同じ目標に向かっているからこそ、1社だけでは成し得なかったことが実施できるんです。スギ薬局での店舗実証が最たる例ですよね。
松田:たしかに、多様なステークホルダーとともに訴求できることは魅力ですよね。今年は行政とも協力し、小学校も含めて官民連携で脱炭素にむけて取り組んでいくので、よりグンと前に進むのではないかと期待しています。
販促と脱炭素は両立するか 店頭での実証実験を振り返る
──設立初年度、スギ薬局の3店舗で実証実験を行っています。
杉山:2024年1月~2月の1カ月間でCCNC参画メーカーの商品を陳列する棚を設け、「脱炭素と販促は両立するか」を実証実験しました。売り場では統一POPを使用し、その他企画とも絡めながら、店舗の内外問わず来店促進と販促を行いました。
ですが、普段はこのような棚のつくり方をしないのが一般的です。本来、企画棚はお客さまの問題を解決するもの。猛暑の季節に熱中症対策を訴求する棚ができるのが良い例です。そう考えても脱炭素を切り口にした企画棚の設置は初めてでしたが、効果を検証するという意味でも、実施する意義は十分にあると思っていました。
──実証に参加したアサヒグループジャパン、三幸製菓は結果をどのように捉えましたか。
松田:我々は「アサヒ おいしい水」と「十六茶」の“シンプルecoラベル”版を展開しました。これらの商品はラベルに使用するプラスチック量を減らしたり、それによるCO2削減の取り組みをしているものの認知度がまだまだ低く、特に水やお茶は競合商品と差別化しづらいという課題がありました。ですが今回「CCNC棚」で陳列することで、環境課題に取り組んでいる商品だとしっかり伝わったのです。後のアンケートからも、それを裏付けるデータがあったのは印象的でしたね。
秦野:当社では「つきたてミックス」という商品を展開しました。パッケージに包材バイオマスを使っている商品なのですが、包装材で環境に配慮することがどれだけ購買に繋がるのかを検証する意味でも、この商品を選びましたね。実際に良い結果も出て、これまで取り組んできたことがムダではなかったことの証明になりました。
──TOPPANとKREOは初参画のため、実証には参加していません。今後どのように貢献していきたいですか。
後藤:当社は販促物やパッケージのデザインや素材、最適な形状など、様々な切り口から環境配慮に取り組んできました。ですが、我々が制作するものは廃棄物になることも多く、環境に良い素材の使用はコストが上がることもあります。私たちが最も課題を解決しなければならないと責任を感じます。脱炭素が商品価値として伝わり、購買に結びつくための最適解を見つけられるよう尽力したいです。
藤野:印象的だったのは、スギ薬局の「企画棚」の話。販促では常識ですよね。ですが、環境という切り口になったときにどう売るのか、本当に売れたのか。“販促のその後”と“次の仕掛け”の可視化に貢献したいです。ジャストアイデアですが、脱炭素における消費のカスタマージャーニーマップが制作できると汎用性が増して、販促施策として脱炭素に取り組む企業が増えるのではないかと思いました。
後藤:とても良い案ですね!様々な業界から企業が集まるCCNCだからこそ制作できそうです。
秦野:これからも実証を行っていきますし、その結果を分析して知見として培っていければ脱炭素と販促が両立できることの証明になりますよね。説得力も高まって、参画メンバーも増えそうです。ぜひ実現しましょう!
──CCNCのこれからに、どんなアクションを期待しますか。
杉山:現在は「商品」を軸に脱炭素を検討している印象です。今後はそれ以外にも、いくつかキーワードを設けて取り組んでいきたいですね。例えば物流など、脱炭素を推進しなければならない業界はたくさんあります。テーマを設定することで、新たな企業が当事者意識を持って参画することもあるかもしれません。CCNCがより大きくなるアクションを期待しています。
松田:私はCCNCが脱炭素における消費を引っ張る存在になってほしいと思いますね。現在の子どもが数年後に購買層になるときに、CCNCの活動に触れたから環境に良いものを買うようになった、という購買行動が当然になっている未来をつくることができるように、我々も尽力します。
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