約3年ぶりのインバウンド消費の波に乗るべく、あらゆる業態が準備を急いでいる。しかし、訪日外国人観光客の消費動向や人流が不明瞭なままでは、企業も効果的なインバウンドプロモーション施策を立案することが難しいのではないか。
本記事では、野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト 木内登英氏がアフターコロナのインバウンド消費における経済効果を予測する。
日本政府観光局によると、今年3月の外国人観光客数(訪日外客数)は181万7,500人、コロナ前の2019年3月と比べて-34.2%となりました。2022年10月に水際対策が緩和されて以降、4月にはわずか半年の間にコロナ前の約66%の水準まで急回復しています。
水際対策緩和から半年 外国人観光客数は急回復
さらに注目されるのは、コロナ前の2019年には外国人観光客数の3割を占め、国・地域別で最大であった中国からの入国者数が依然として低位にとどまる中にもかかわらず、ここまで入国者数が戻ったことです。
中国からの入国規制は、既に緩和が進んでおり、4月には中国本土からの直行便による全入国者に求めてきた出国前72時間以内の陰性証明の提示が不要になりました。さらに5月には、接種証明の提示も不要になり、中国からの入国者もこの先急速に増えることが予想されています。水際対策緩和前の2022年9月、筆者は外国人観光客数の試算を行ったところ、その際はコロナ前の2019年同月の水準を上回る時期は2024年10月との結果でした。つまり、回復に2年程度かかると推計していたということです。
ところが今回、今年3月分までの実績値と中国からの入国規制緩和の影響を織り込む形で再推計を行った結果、コロナ前の2019年同月の水準を上回る時期は2023年8月へと大幅に前倒しとなりました(図1)。
出典:日本政府観光局、野村総合研究所
さらに、外国人観光客数の予測値と2023年1~3月期の外国人観光客1人当たりの消費額に基づいて推計した2023年のインバウンド需要は、5兆9458億円。これは、2023年の(名目及び実質)GDPを1.07%押し上げる計算です。観光関連業界や小売業界には強い追い風になると考えられます。
「観光立国推進基本計画」 目標達成は大幅前倒しの見通し
政府は3月31日に、観光立国の実現を目指す「観光立国推進基本計画(第4次)」を閣議決定しました。
その中で、外国人観光については、❶訪日外国人旅行者数のコロナ前の2019年水準超え、❷訪日外国人1人当たり消費額20万円、❸インバウンド需要5兆円を2025年の目標として掲げています。しかしこれらの目標は、2025年を待つことなく今年中にも達成される可能性が高まってきました。
観光庁が発表した2023年1~3月期訪日外国人消費動向調査によると、外国人観光客1人当たり旅行支出は、平均で21.2万円。コロナ前の2019年の支出は15.9万円だったので、政府が2025年の目標とした消費額20万円は、既に達成された可能性もあります。
この結果の背景のひとつとして考えられるのは、円安による日本での旅行の割安感です。それに加えて日本での旅行の魅力が高まり、宿泊費などを中心に日本での支出を増やす傾向、いわゆる「贅沢志向」が外国人観光客の間で強まっている可能性もあります。政府が目指す「高付加価値化」は、予想より早く達成されつつあると考えてよいでしょう。
また、❷外国人旅行者数のコロナ前の2019年水準超えという目標についても、先述のように、今年8月には達成されることが予想されます。さらに、2023年のインバウンド需要は5.9兆円と予想され、5兆円という政府目標も今年中に達成される見込みです。
このように、政府が「観光立国推進基本計画」で示した外国人観光客/インバウンド需要に関わる目標は、いずれもかなり前倒しで今年中にも達成される見通しとなっているのです。
観光魅力度では優位性が高い日本
コロナ前の2019年の日本の外国人観光客数は3,188.2万人でした。これは第1位のフランスと比べると3分の1程度で、世界の中で第12位の...