生活者の求めるものが商品やサービスの品質、納期、コスト以上の付加価値となった時代。顧客体験(CX)を向上させる施策の重要性はますます高まっている。本稿ではアイレップ八木典裕氏が顧客起点でCXを高めるための方法を解説する。
DX、CX、UX、EX、SX、BXなどなど、ここ数年で様々な“X”が付く言葉が登場しています。読者の中には、「いい加減にしてくれ」と思っておられる方もいるかもしれませんね。これらの“X”が付く言葉は、デジタルの世界で語られるものがほとんどですが、デジタルに慣れていない人にとって、デジタルアレルギーは想像以上に大きいものです。
例えばDX(デジタルトランスフォーメーション)は、かなり世の中に浸透しているので、聞いたことがないという人は稀かと思います。ですが、言葉の意味まで正確に理解できていないと、「何だかよくわからない」という気持ちになってしまうものです。もし言葉の意味と、なぜ世の中で話題になっているかまで理解することができれば、デジタルアレルギーは薄れていくことでしょう。
そこで今回は、現在のマーケティング活動に欠かせないキーワードとなっている「CX(カスタマーエクスペリエンス)」をテーマに、読者の皆さんの理解が深まるような解説をしていければと思います。現在あらゆる企業がCX向上に本腰を入れる必要があると考えているのですが、なぜそこまでCXが重要となっているのか。本記事では「感動するほどのCX」をテーマに、お伝えしていきます。
なぜCXが話題になっているのか
顧客体験を意味するCXですが、顧客目線で考えるのはサービス提供企業として当然のことであるため、「CXが重要」といわれても真新しい考えとは思えません。ではなぜ、今こそCXに本腰を入れる必要があるのでしょう。
それは、デジタル社会がもたらしている世の中の変化が大きな要因となっています。いつでもインターネットとつながることができるデジタル社会では、生活者の価値観は多様化しており、それに応えるように続々と新たなデジタルサービスが生まれています。人々は新たなデジタルサービスを利用するにつれて期待値が高まっていくため、何も手を打たずにサービスを野放しにしておくと、CXが自ずと低下していくことになります。もちろん毎日のように利用されるサービスであれば、飽きられてしまうこともCXが低下する要因になるでしょう。
つまり、様々なデジタルサービスが日進月歩しているデジタル社会においては、CXは時間とともに低下していくため、サービスの“賞味期限”が短くなっていることを認識する必要があるのです。
そのうえで、どうすれば良いかを考えていくのですが、対処法は二つあります(図1)。
一つ目は、サービスを日々の生活に溶け込ませること。生活者にとって、無くてはならない存在になることでCXの低下が抑制され、サービスの賞味期限は長くなっていきます。
二つ目は、CXを跳ね上げること。顧客の心を刺激するようなサービスを提供できれば、一時的にでもCXを向上させる効果が見込めます。そのため、デジタル社会に生きる生活者の先を行き、驚きを与えるようなサービスを手掛けることが重要なのです。
生活者の進化に目を向ける
変化の激しいデジタル社会では、新しいトレンドが続々と生まれていますが、ほとんどのトレンドを生み出しているのは若者世代です。例えばLINEやYouTubeといったデジタルサービスは、今では中高年の方にも浸透していますが、最初は若年層間で主に使われ始めました。したがってデジタル社会においては、デジタルネイティブといわれるZ世代やα世代の行動傾向を理解し、彼らに焦点を当てたCXを検討していくことが非常に重要なのです(図2)。
しかし、デジタルネイティブに刺さるサービスに仕立てるのは、簡単なことではありません。なぜなら大企業であるほど、会社の主力として活躍している人の多くがX世代やY世代だからです。デジタルネイティブと世代ギャップのある人が、デジタル社会の最新トレンドをつかむのは容易ではありません。もし皆さんの会社の経営層が、ご自身の知見・経験だけでビジネスのあり方を考えられているとしたら、非常に危険な状況なのかもしれません。
例えばデジタルネイティブにとって当たり前となった動画配信アプリは、いつでもどこでも好きなタイミングで視聴できるので、通勤中はスマホで、家に帰ったら続きはテレビで見るといった使い方ができます。もちろん視聴速度を自在に変えられるので、手早く情報を収集したい場合は...