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ヒット商品に学ぶ 心を動かす価値の本質

心霊スポット巡礼ツアーが好評 三和交通「移動」プラスαの提供理由とは

小澤千秋氏、小関正和氏(三和交通)

『SP風タクシー』や『忍者でタクシー』など、ユニークな乗車メニューで毎回話題を集める三和交通。差別化の難しいタクシーサービスで、非日常感を演出し、人気ツアーの抽選倍率は60倍を超える。企画も担当する統轄本部の小澤千秋氏と小関正和氏にその狙いを聞いた。

タクシーと言えば「三和交通」と意識づけたい

──ユニークなツアーやサービスの提供を始めたきっかけを教えてください。

小澤:始まりは2013年の『タートルタクシー』というサービスです。タクシーにゆっくり乗るという新しい乗り方を提案しました。発進時や曲がり道などで、お客さまに極力揺れを感じさせない運転を行います。妊娠中の方や体調がすぐれない方などのニーズを反映しました。

このサービスがきっかけとなり、翌年からは『心霊スポット巡礼ツアー』(写真1)など、単なる送迎だけではない、体験型ツアーなどを始めました。差別化の難しいタクシー業界で当社を選んでもらうためには、まずは名前を憶えてもらう必要があります。そこで他社と違うユニークなサービスを打ち出すことにしました。

写真1
昨年、抽選当選倍率が60倍を超えた人気ツアー『心霊スポット巡礼ツアー』。

また、お客さまに対する訴求の他にも採用面での目的もありました。ドライバーの高齢化は業界全体の課題です。新卒採用を積極的に行う中でユニークなサービスをきっかけに三和交通を認知し、当社に入りたいと思ってもらう狙いがありました。

老若男女をターゲットに複数のサービスを設計

──利用されるシーンやユーザーの特徴はありますか。

小関:ツアーやサービスによってかなり違いがあります。例えばドライバーがSPに扮する『SP風タクシー』(写真2)は、宴会の一次会から二次会への店舗移動の際に利用したり、集合時間に遅れた方がSPに守られながら移動してくるなど、ちょっとしたお笑い要素をプラスしたいという需要が多いです。

また、ドライバーが忍者になりきる『忍者でタクシー』(写真3)はインバウンドのニーズが高い印象です。空港に到着した海外からのお客さまの送迎に使用したいという日本のお客さまからの注文もあり、自分自身が使うのではなくおもてなしのコンテンツとして選んでいただくこともあります。料金体系はどちらも、サービス指定料金(3300円)に走行距離の料金を加算します。

写真2
ドライバーがSPに扮する『SP風タクシー』

写真3
インバウンドの人気が高い『忍者でタクシー』。

他にも桜の名所を巡る『お花見タクシー』は年配の方からの注文が多いなど、ツアー・サービスごとにターゲットのすみ分けを行っています。

期待値を超える内容がお客さまの満足度につながる

──これまでどのくらいのコンテンツを提供していますか。

小関:これまでツアー・サービス合わせて約50のコンテンツを出しています。中でも『心霊スポット巡礼ツアー』は抽選を行うほどの人気商品になります。同ツアーは毎年8月の10日間のみの運行ですが、昨年は40件の開催数に対し2492件の応募をいただきました。抽選倍率は62倍になりました。多数のメディアで取り上げてもらえたことで、今では47都道府県のお客さまからお申込みをいただきます。

体験されたお客さまの感想で印象的なのが「まさかここまで本気でやってくれるとは思わなかった」という驚きの声です。タクシー会社のツアーは前例が少なく、最初は期待のハードルが低いお客さまも多いです。一方、『心霊スポット巡礼ツアー』は、腰を抜かすお客さまもいるほど怖いスポットを巡る、かなり本格的な設計にしています。いい意味で期待値が低い参加前の心理状態とのギャップが生まれ、結果として満足していただける方が多いのではないでしょうか。ツアーのお申込み数も年々増加しています。

──商品の企画や設計はどのように行っているのでしょうか。

小澤:毎月1回、代表の吉川から新卒社員までが集まり、全社で新サービスを考える会議を設定しています。「また三和交通がなんかやっている……」と思ってもらえる、クスっと笑ってもらえるサービスを社員一同で考えます。

ドライバーもサービス精神旺盛な人が多く、例えば『心霊スポット巡礼ツアー』は毎年より怖いコースにするために自らスポットを探してきてくれる人もいます。通常の送迎サービスと比較すると、お客さまとの交流の密度も高く、喜びの声などを実感しやすいです。タクシーのサービスの評価はドライバーの接遇に大きく左右されます。こうした反響はドライバーのモチベーション向上にもつながり、既存のツアーやサービスをよりよいものにアップデートできていると感じています。

業界全体のイメージを変えるサービスや情報を発信

──コロナ禍を経て提供するサービスに変化などはありますか。

小澤:コロナ禍以前は、他社との差別化を図るために自分たちがやれることがサービス企画の背景でした。それが、コロナ禍になりフードデリバリーやお使いタクシー(買い物代行)など、よりお客さまのニーズを考えてサービスを打ち出す方向性に変化しました。これまで様々なサービスを提供していたナレッジがあったので、企画・サービスを考えて実行するまでの流れをスムーズに行うことができました。

また、私たちの目標として自社だけでなくタクシー業界全体のイメージを明るく楽しいものに変えたいという想いがあります。当社に対するイメージは徐々にお客さまに浸透しているかもしれません。一方で業界全体に対するイメージは怖い、暗い、堅いなどまだまだネガティブな部分もあります。

当社ではサービス以外にも、50代の「おじさん」社員が全力で踊るTikTok投稿など、タクシー業界っておもしろい、と思っていただけるような情報発信も行っています。業界全体に対するお客さまのイメージチェンジを図るためにも、これからも「移動」プラスα(アルファ)の付加価値を提供していきます。



三和交通
統轄本部 広報部
小澤千秋氏

2017年三和交通入社。配車センターのオペレーターを経験したのちに同年、現在の広報部に移動。ニコニコ生放送やYouTubeなどオウンドメディアを使った広報活動を主に担当し、現在は自社で開発したタクシー向け商品の販売や新卒採用も担当。

三和交通
統轄本部 広報部
小関正和氏

2015年三和交通に入社。入社後はタクシードライバーを経験、16年に管理職、19年より広報部に移動。自社のイメージアップや情報発信を担当。広報戦略の企画・立案に加え、広報物の作成も広報部の重要な仕事の一つ。

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