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売上を伸ばすための基礎知識 販促の基本

常識が、武器になる。一番はじめのアイデア術

多々良 樹(電通)

いよいよ始まる販促コンペ。本稿では『販促の基本』特別編として、コピーライター・プランナーの多々良 樹氏が文化祭から新事業まで、販促にも使える発想法のさわり、いわばアイデア術の「ア」の部分を解説する。

アイデアって、なんだか特別で、高級で、美しいもののように感じませんか。だけど、それを考える方法は……全然特別でも、高級でも、美しいものでもありません。どんなに輝かしいアイデアも、普通に日々を生きる、普通の人が、ごく地道に考えた結果なのです。アイデアを考えること、に魔法は存在しません。「これをやればおもしろいアイデアがバンバン出てくる!」という発想法はないのです。

とはいえ。アイデア出しを宿命づけられた職業に就つ者として、「なぜ自分のアイデアがおもしろくないのか」についてはよく考えています。その中には、皆さんに役立つ経験が含まれているかもしれません。もしあなたが「アイデア」を前に途方に暮れているなら、是非読んでみてください。わたくし多々良が、魔法使いならざる凡夫の先達として、磨いてきたアイデア術の大切なところをお話しします。

可能な限り常識を集める

アイデア出しにつまずく時、二つのパターンがあります。一つは、「本当に何も思い浮かばない時」。もう一つは、「出したアイデアが全部おもしろいと思えない時」。

まずお話ししたいのは「本当に何も思い浮かばない時」。そんな状況を脱するためには……そもそも「アイデアとは何か?」という話をする必要があります。もちろん諸説ありますが、ここでは、「常識を破壊することで、課題を解決する発想」のことをアイデアと呼ぶことにします。不可能を実現する。新しい使い方を提案する。NEWNESS(新しいこと)は常に「常識=前提」があるからこそ発生します。前提がなければ、斬新もクソもないのです(図1)。

図1

つまり、「その対象にはどんな常識があるのか?」をひっくり返したものがアイデアであると言うことも可能なのです。例えば「アイドル=滅多に会えない→会いに行けるアイドル」。例えば「アイドル=アイドルソング→メタルを歌うアイドル」。例えば「アイドル=よく笑う→笑わないアイドル」。

レイヤーが異なっていたり、強い弱いはありますが、「前提」「よくあるイメージ」「常識」を書き出せば書き出すほどアイデアは出せます。ポイントは、「意識できないほど染みついた常識こそ、破壊したなら強力なアイデアとなる」という点。思ってもみなかった自分の常識を壊された時、人は「素晴らしい!」と唸ってしまうものです。

また、破壊の方法も沢山あります。先ほどの例で言えば、「アイドルソング→ジャズ」も「アイドルソング→歌わないアイドル」も両方アイデアです。ただここで一番、聞いてみたくなるのは「アイドルソング→メタル」だと筆者は感じます。つまり、破壊の仕方でも良し悪しが決まるのです。

うーん、やっぱり簡単ではなさそう。簡単ではなさそうですが……。

でも、ね、できる気がしてきませんか。常識を書き出すだけでいいのです。なるたけたくさん書き出してみましょう。その分だけアイデアになるのですから。もしもあなたが「何も思いつかない……」と悩んでいるなら、まずはそこから始めてみてください。

3つのレイヤー:課題発見アイデア

さて……何も思いつかないことは無くなったはずです。ただ、もしかしてあなたは今「たくさん出したけど全部つまらないアイデアだ……」と落胆しているかもしれません。着目している常識がおもしろくないのか。その破壊の仕方がおもしろくないのか。それらを試行錯誤していくことも一つの道ですが……ここでは別の道をお話しします。

その第一歩が、「アイデアを3つのレイヤーで捉える」こと。「そんな課題が!」「そんな方法が!」「そんな見せ方が!」アイデアには3つのレイヤーがあります。それぞれ、課題発見アイデアと、仕組みアイデアと、表現アイデアと呼ぶことにします(図2)。

図2

実は、これらを組み合わせたものが、企画と呼ばれるものです。3レイヤーのアイデアが揃った完璧な企画もありますし、2レイヤーしかないけど魅力的な企画も存在します。大切なことは、アイデアのレイヤーを意識できると、アイデアが強化できるようになるということです。

より正確に言うと、あるアイデアに別レイヤーのアイデアを組み合わせ・補強することで、それが弱いアイデアでも強い企画にすることができるのです。つまらないアイデアも、別アングルから捉えることで、強くなる素質を秘めている。あなたのアイデアを強化するために。まずは「課題発見アイデア」についてお話しします。

課題発見アイデアとは、企画の下支え。いわば盲点を暴くパートです。
「コンタクトレンズを洗うのが面倒なのは、汚れが目に見えないから」
「防虫剤を買い替えないのは、意識されるタイミングがないから」
「みんながピザを食べるシーンでは、遅刻が一番申し訳ない」

上記は過去の販促コンペの応募企画から引用していますが、全て、「課題発見アイデア」です。もちろん、課題発見をしないタイプの企画もありますが、もしも発見できれば非常に強力な武器になります。

ここでも「常識」は大事になります。「コンタクトレンズの汚れは目に見えない」。当たり前ですよね。当たり前だけど……「コンタクトレンズを洗うのが面倒」という課題とくっつけると、ハッとします。

つまり、「課題発見アイデア」=「誰もがついついやってしまう行動・感じている本心」×「その原因となる常識や前提」。一度課題発見してしまえば、それを解決する企画は自然と導くことができるはずです。「誰もがついついやってしまうこと」と「その原因となる常識」を考え抜く。うまく組み合わせて、課題発見してみましょう!

3つのレイヤー:仕組みアイデア

続いてのレイヤーは、仕組みアイデア。普通、アイデアと言うと、これを指す場合が多いです。「会いに行けるアイドル」「ブラックライトを出すコンタクトケース」「干支の形の防虫剤」。そのアイデアを一言で言うと……というものです。

前述の課題発見アイデアから考えることもできますし、常識→反例で作ることもできる。そのほか様々なアイデア発想法を試してもいいかもしれません。強い仕組みアイデアのポイントは、「一言で言えること」と「強い常識をひっくり返すこと」です。人間の脳に処理できることは限界がありますから、グッとくるアイデアはシンプルであることがほとんどです。わかりやすいんですね(実はここにアイデアの功罪がありますが)。

そして、前述の通り、強い常識を綺麗にひっくり返すほど、強い仕組みアイデアになります。「会いに行けるアイドル」は、ひっくり返す前提が強い。一方で、「ブラックライトを出すコンタクトケース」は……もちろん、コンタクトケースはブラックライトを出さないので常識を裏切っています。

しかし「コンタクトケースはブラックライトを出さない」というのはなんというかピンポイントな常識です。だからこそ、仕組みアイデア単体で考えると「会いに行けるアイドル」の方が強く感じると思います。しかし……「ブラックライトを出すコンタクトケース」は「目の汚れが可視化されて洗うのが楽しくなる」という補足があれば非常に強いアイデアです。

話は飛びますが、つまり、これが企画です。仕組みアイデアで突破するか。課題発見アイデアで突破するか。たとえ弱い仕組みアイデアでも、課題発見アイデアを後付けできたら強力になります。逆もまた然りです。

アイデアのレイヤーを分解することで、アイデアが強くできるというのはそういうことなのです。

3つのレイヤー:表現アイデア

おっと紙幅もあとわずかなようです!!しかし、ご安心を。表現アイデアはそんなに解説することがありません。ここまで考えてきた課題発見と仕組みを、ベストな方法でアウトプットする努力をしようということです。

ダジャレをつかった商品名も、表現アイデアです。「ブラックライトを出すコンタクトケース」が「猫の形」なのも、表現アイデアです(第12回販促コンペ グランプリ「キャッツアイセイケース」)。

結局、人の心を魅了するのは表現です。「ブラックライトを出すコンタクトケース」は、無機質な見た目でも良かったかもしれません。でもやっぱり猫にもアイデアを感じますよね。アイデアを聞く人を魅了したいと思って、猫にしたのだと思います。

あなたの発想を、最も素晴らしい形に、人の心を魅了するようにアウトプットする方法を考える。短く、シンプルで、チャーミングな言葉に、絵に、図にする。それが表現アイデアと呼ばれる発想です。

アイデアはシンプルか

さて、「アイデアとは常識を破壊すること」「アイデアを3つのレイヤーで捉え強化する」ということを話してきました。特に後半では、アイデアを付け加えていく話もしていますが……ここには落とし穴があります。

考えれば考えるほど、アイデアに対する説明が長くなってしまうということです。

アイデアはシンプルが一番。クドクドと説明しなければならないアイデアが、人を魅了することはありません。課題発見、企画、表現。本当は3枚のスライドで説明がつくはずです(いやすみません、そんな無理しないでください。2枚、2枚、3枚の7枚くらいで!)。

一度考え切ったら、頭を冷やして、自分に問うてみてください。「このアイデアは、シンプルか?」そうでないなら、もう一度最初から、考えてみましょう(図3)。

図3

アイデアは人の心を動かすか

いよいよ最後のパラグラフ。各章が長かったり短かったり、アンバランスな構成で恐縮です。アイデアという素晴らしくも怪奇なモノを4500字で紹介しようとしているためです。どうかご容赦ください。

最後、あなたが考えるべきことは、「このアイデアは、人の心を動かすか?」という点です。しかし、あまり心配することはありません。ここまでの作り方であれば、必然的に人の心が動くようになっているはずです。それはあなたが、「常識を裏切る」ようにアイデアを作ってきたから。課題発見でも、仕組みでも、表現でも、常識を破壊しようと試行錯誤したはずです。ここで、広告業界の先輩が言っていた、素晴らしい言葉をあなたに贈ります。

「人は感動する前に、驚いている」

はい、そうなんです。人の心を動かすためには、まず驚かせる必要があるんです。そして、驚かすとはすなわち、「常識を裏切ること」に他ならないのです。ここまで考えたあなたであれば、きっとロジカルに常識を裏切っているはず。

であればこそ、それはきっと感動できるものに仕上がっているはずです。もしもそうでないなら……もっと驚きを追加してみましょう。もっとシンプルにしてみましょう。もう一度、これまで出した常識を見直してみましょう。試行錯誤の方向を間違えなければ、一歩一歩着実に、素晴らしいアイデアに近づいていくはずです。





さあ、最後に。ここまで理路整然と、「正しい」アイデア術を語ってきました。あなたはこの文章の言うとおりにアイデアを考えて……きっと、自信のあるアイデアは出ていないと思います(いやすみません!!怒らないで!!)。なぜかほぼ全ての場合において人は、どうやったらおもしろくなるか、素敵になるか、提出の間際まで苦しむんです。やっぱり、魔法はないのです。

でも、ご存じですか。かの名曲・第九では、歌唱の冒頭で「nicht diese Töne!(このような旋律ではない!)」と叫ぶのです。素晴らしい旋律が生まれる前には、ベートーベンですら、自分の作品に絶望したんじゃないでしょうか(図4)。

図4

ああ自分は魔法使いじゃないと知った、あなた。きっとあなたは、スタートラインに立ったのです。

アイデア術の「ア」の部分、伝わったでしょうか?それでは、存分に楽しんで。みなさまの勝利を祈っております。

追伸:もうちょっと色んなアイデア発想法を試したい!という方は「はじめて企画する人のための企画法大全」で検索してみてください。

    CHECK LIST

    アイデア術の「ア」の部分

    可能な限り常識を集める
    まずは対象にまつわる常識をたくさんたくさん書き出してみましょう。

    3つのレイヤー:課題発見アイデア
    誰もがついついやってしまうこと。その原因となる常識。それを暴ければ、あとは解決するだけです。

    3つのレイヤー:仕組みアイデア
    強い常識を探すこと。そしてそれを鮮やかにひっくり返すこと。難しいなら、課題発見と組み合わせること。そうして強い仕組みアイデアになります。

    3つのレイヤー:表現アイデア
    表現までしっかりと考えてこそ、アイデア。おもしろい伝え方。チャーミングな見た目。シズルのあるシーン。アイデアをベストな形で見せましょう。

    アイデアはシンプルか
    単純で、明快で、骨太か。いいアイデアとは、不思議といつもそういうものです。たくさん説明しないとわからないアイデアなら、あえて単純化してみましょう。

    アイデアは人の心を動かすか
    なんでそのアイデアが必要か?人の心を動かすため。自分のアイデアのどこが人を魅了するのか?しっかりと考えてみましょう。



電通
コピーライター・プランナー
多々良 樹氏

1989年浜松生まれ。理工学部出身の経験を活かしたテクノロジー・デジタル系施策から、出身があまり活きるわけでもないマス広告まで幅広く手がける。広告賞、技術賞など受賞多数。

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