第14回「販促会議 企画コンペティション(販促コンペ)」で最終審査員を務めた嶋野裕介氏が、昨年の販促コンペで惜しくも受賞を逃したファイナリストの作品を解説する連載の最終回。来る第15回販促コンペに向けた必読の内容だ。
オリエン内容

メガハウス
発売50周年を迎える「オセロ」の楽しさを伝え、遊んでみたくなるアイデア


オセロdeスタディ
谷口泰星(パナソニック)
岩本 篤(パナソニック)
片口泰成(ヒルズ)
良かった点
企画書としては理想形だと思います。プロダクトを全肯定した上で課題を出し、ターゲットとインサイトも明確に設定。その中でも具体的にアイデアの着眼点までこの3枚で到達しているスピードは素晴らしいです。10枚しか出せない販促コンペにおいてはこの「なるべく早くコアアイデアまでもっていく」がかなり重要であり、この色使いを含めたデザインのわかりやすさは審査上大きな優位となります。
惜しい点
2枚目のターゲットの部分ですが、本当に親世代だけでしょうか?親世代は確かにそう思いますが、実際にプレイする子どものことも考えないといけません。親の「やってほしい」と子どもの「やりたい」が交わらないとこの手の企画は成立しません。
良かった点
デザインがわかりやすくて良いです。企画趣旨を一瞬で伝えることができています。簡単にプラスできるということは、企業側の導入ハードルを下げるのでポイントが高いです。特に3枚目の「売り場の拡大」は既存商品の新しい売り方を示唆できていてとてもいい着眼点だと思います。
惜しい点
本当にユーザーは楽しいのでしょうか?大人や先生から見るとそりゃあ勉強してくれたらうれしいのですが、子どもからしたら単なる勉強の一環にしか見えないです。本当に子どもが楽しめるルールや設計がないと、この企画がひとりよがりなものに見えてしまいます。
良かった点
いろんな教科に転用できるところは良いです。しかもグローバル展開の可能性を匂わせるなど、企画の拡張性を示唆するのはこういう提案においてはポイントが高いです。最後のページは読後感がとてもよいと思います。ここでは最後のコピーが大事なポイントで、この企画の骨子をうまく表現できています。
惜しい点
全体を通じて「なんとなくいい」という、ゆるふわな印象があります。それは、ターゲットやインサイトの精度が粗いことを意味しています。汎用性が高い企画ゆえにオールターゲットといえば聞こえはいいのですが、子どもは何歳なのか?彼らはどんな教科の学びを必要としているのか?そもそもそれは楽しいのか?そこの想像が具体的でないゆえに、企画書に出てくる言葉や事例もあやふやに見えてしまっています。
全体講評
企画書の構成力・腕前は今年の応募作でもトップクラスだと思います。入り方・コアアイデア・ビジュアル・懸念点の払拭・SNSポイント・想定KPIの算出・世の中での広がり方……。ここまで網羅できてるのって、かなりすごいと思います。販促コンペに「企画書技術賞」があれば優勝してもおかしくない。
第1回の企画書(2023年1月号)に続き「概念先行型」の企画書だと思いました。書かれた方はコンセプトとターゲット設定がとても上手な方だと思います。企画書の入り方から、ターゲット設定・遊び方・アイデアまでがストレートにつながっているので最後までとても読みやすく、評価しやすい企画(書)だと言えます。
しかし、この読みやすさが落とし穴かもしれません。「買うのは親だから、親が買いたくなる理由をつくろう」というところで想像が止まっているので、具体的に子どもについての想像が足りていません。子どもと一口にいっても、年齢・性別によってもかなり興味が異なってきます。勉強をアイデアにする以上は、その点をキッチリ設定してから企画書をつくらないと、具体的に遊んでいる様子が想像できず、企画者への信頼感がゆらぎます。
繰り返しますが、企画書の構成や流れ自体は素晴らしかったです。オセロだから最初黒のページがアイデアパートから白背景になるあたりも企画書のインパクトを高めようとする書き手の意図を感じられました。

電通
クリエーティブディレクター・PRディレクター
嶋野裕介氏
マーケティング局、営業局を経て、クリエーティブ職に。PR起点で拡散させるコミュニケーションデザインを担当。最近の仕事は「BOSS×ウマ娘」「THE STRONG×スト2AR」「BOSS×ゴジラ」「#縄文式ビリビリ健康法」など。企画書は書くのも読むのも大好きです。いい企画書があれば読みたいです。