データ活用といっても、いったい何から手をつけたらよいのか。そんな悩みを持つ販促担当者は少なくない。今回は、ビッグデータの中でも特に大きなボリュームを持つ消費者購買データについて、POS、ID-POSの基本からTrue Dataの越尾由紀氏が解説する。
新型コロナウイルス感染症の影響で社会のDX(デジタルトランスフォーメーション)は急激に加速しました。よく言われることですが、DXとは単にアナログだったものがデジタルに置き換わることではなく、デジタル技術を使ってビジネスそのものを変革し目的を達成することです。
DXには三つの種類があります。一つ目は「守りのDX」。業務を効率化したり、無駄を省いたりすることでロスを減らし、利益を高めるための取り組みです。二つ目は売上の拡大を目的とする「攻めのDX」。三つ目は、守り・攻めの両方を支えるための基盤を変革する「プラットフォームのDX」です。
ここでは、コロナ禍後の売上回復につながる「攻めのDX」についてフォーカスします。世界的な感染拡大の影響で、人びとの暮らしや価値観が大きく変わりました。お客さまは「なるべく接触を避けたい」と思うようになり、現金決済から電子マネーや二次元コードなど、非接触の決済を積極的に使うようになりました。
混雑を避けるために一時期チラシを休止した店舗は、お客さまにダイレクトにアプローチする方向へと動き、アプリの導入が進んでいます。このように、お客さまと店舗、双方のデジタル化が急速に進んだことが、データを活用したDXが加速した背景にあります。
ID-POSはすご腕コンシェルジュ
デジタル広告に触れることが増えたお客さまの嗜好、価値観はより多様化し、「自分が必要な情報」「自分の好きなもの」を求める傾向にあります。一つ、興味深いデータをご紹介しましょう。食品スーパーマーケットでは、1年にどれくらいの新商品が登場し、消えてゆくのでしょうか。2021年8月から2022年7月のデータでは、食品スーパーマーケットにおける新商品※の割合は22.9%。
一方で前年は売上が発生したのに当年は発生しなかった「消えた商品」は23.2%でした。生まれた分だけ消えていくのです。余談ですが、カテゴリによってその数は大きく異なり、例えばパン・シリアル類では新商品構成比は57.0%、消えた商品は56.3%にものぼります(出典/True Data)。
多くの商品が常に入れ替わっていく市場において、たくさんの商品の中から、お客さまに選び続けてもらうことの難しさを実感するデータです。
このように、競争の激しい市場で生き残るために重要なことは、お客さまひとりひとりを深く理解し、本当に欲しい情報、商品を届けることです。しかし、膨大な数のお客さま全員に詳しくお話をお聞きすることは現実的に不可能。そこで有効なのが「ID-POS」です。データが有能なコンシェルジュのように、お客さまの個別のニーズをあぶりだしてくれることで、その人が必要なもの、その人が好きである確率が高いものを選び出して情報を届けることが可能になるのです。
POSとID-POSの違い
具体的な分析について学ぶ前に、まずは「POS」と「ID-POS」の基本的な違いについて整理しておきましょう。
「ID-POS」の「POS」とは、「Point of Sales」の頭文字をとったもので、商品が販売された時点での情報を取得・管理する仕組みのことです。「POS」に「ID」=顧客IDが紐づいたデータが「ID-POS」と呼ばれます。顧客IDは買い物客を識別するIDのことで、ポイントカード番号などがこれに該当します。
同じ購買データでも、「POS」と「ID-POS」には大きな違いがあります。POSデータは「商品を軸にしたデータ」です。レシートを思い浮かべてみると、店の名前から購入した時間、商品名までずらっと並んでいますよね。POSデータではレシートのように「商品がどのように売れたのか?」がわかります。
一方のID-POSデータでは、商品の売れ方にポイントカード番号やアプリ会員番号などのIDが紐づいています。カードの持ち主がどんな買い物をしているのか、つまり「誰がどのように買ったか?」がわかる「人を軸としたデータ」なのです。この「人を軸とした」という点が大きなポイントで、このコラムの後半で解説する「購買者ではない人を把握する」といった取り組みも可能にするのです(図表1)。
ID-POSでできること
さて、「人を軸とする」ことがID-POSの特徴だということがわかりました。次は、具体的にどのような分析ができるのか、代表的な分析例を見ていきましょう。
まずは基本編です。
①お客さまの基本情報を知る(属性分析)
属性は、商品の広告を検討する際などに必要な基本情報です。商品を購入する人の性別、年代情報を把握し、どのメディアのどの番組に広告を出すべきなのか、視聴者層を見ながら検討します。実際にその広告を打ったあとには、狙った年齢層で売上が伸びているのかどうか、といった効果検証も可能です(図表2)。
②ファン度合いを知る(リピーター分析)
ここでクイズです。A商店と...