商品の価格、基本性能、デザインなど、いろいろな観点から商品は検討されるが、消費者の「買う」、「買わない」は、どう決まるのか。本稿では、早稲田大学意思決定研究所の竹村和久氏が、店舗プロモーションに役立つ消費者の意思決定の特徴を解説する。
消費者は、様々な問題認識をもって意思決定をしています。消費者が意思決定を行う際には、日常用品の購買のような最寄り品の意思決定の場合には、あまりいろいろと比較吟味をしないで、不足分を補充するとか見慣れたブランドを購入するということがよく行われます。
問題認識によって意思決定が異なる
これは、「ルーティン的問題解決」と呼ばれる意思決定です。また、家電製品のような買回り品の場合、メーカーや機能や価格を比較して、いろいろと情報の検討をして意思決定が行われます。これは、「限定的問題解決」と呼ばれる意思決定です。
さらには、まったくこれまで経験したことのないような製品の購入、例えば、はじめてのスマートフォンの購入やEV車の購入のような場合は、そもそもブランドの情報を検討する前に、製品についての知識を得て、どのような観点で意思決定をするかを考えます。これは、「広範的問題解決」と呼ばれる意思決定です。このように、消費者の問題認識の仕方によって意思決定の仕方は異なります。
情報探索がほとんどないルーティン的問題解決の場合は、製品情報やブランドの情報を提示するプロモーション戦略を行ってもあまり効果がなく、むしろ試供品の提供など習慣を変えさせるようなプロモーションが有効です。また、限定的問題解決の場合は、他ブランドとの比較検討や情報探索がなされるので、ブランドについての情報、例えば、価格やブランドの特徴などを提示して、他ブランドからの優越性を示すプロモーションが有効になります。
さらには、広範的問題解決の場合には、ブランド情報を提示する前に、製品についての知識を提供するようなプロモーションが必要になります。
消費者の決定方略とプロモーション
消費者の問題解決のパターンがわかったとしても、消費者がどのような決定方略で意思決定しているかを理解することも、プロモーションにとって重要になります。消費者の決定方略というのは、簡単に言うと「決め方」で、製品やブランドについての情報探索や選択肢の評価の時系列的なパターンになります。パソコンの購買を例にとると、ブランドの各属性(価格などの特徴)を同基準で評価するとしても、すべての選択肢の情報探索を行う場合と、一部の選択肢のみ情報探索を行う場合とでは、評価が異なる場合があります。
身近な例で言うと、地域内でパソコンを販売している店舗をすべて回って、最も満足のいくパソコンを選ぶ場合と、1つの店舗ですぐに決めてしまう場合では、仮に同じような基準(価格、機能等の基準)であったとしても、購入される店舗やブランドが異なってしまうことがあります。
情報をくまなく検討して、良い点や悪い点を相殺して総合して意思決定する決め方を、「補償型決定方略」と呼び、あまり情報を検討せずに総合的な評価を行わないで意思決定する決め方を、「非補償型決定方略」と呼んでいます。消費者が非補償型決定方略を用いる場合は、POP広告、棚割り、陳列などのプロモーションが、消費者の意思決定に大きく影響を与えることになります。また、これまでの消費者の意思決定の研究では、店舗内で消費者は非補償型の決定方略を用いがちであることがわかっています(Takemura,2019)。
決定方略の過程追跡技法による研究
このような決定方略の検討や測定を行う方法に過程追跡技があります(Kühberger,Schulte-Mecklenbeck&Ranyard,2011;Takemura,2019,2021)。この中でも代表的な情報モニタリング法は、実験参加者にブランドについての情報を自由に探索させ、どのような選択肢のどの属性の情報をどの順序で探索したかを分析する方法です。
この方法では、PCディスプレイなどに表示されたブランドの属性情報(価格など)を順次獲得していく様子を調べる情報提示ボードによる方法と、眼球運動測定装置(写真1)などを用いて意思決定における注視パターンを分析する方法(図表)などがあります(Takemura,2019,2021)。