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売りにつながる!「言葉」の使い方

「体験価値」も重要 ECとセールスコピー

仲野佑希氏

EC市場の拡大に伴い、今注目されているのが言葉を通してユーザー体験を設計する「UXライティング」だ。オンラインショッピングの体験そのものを支えるUXライティングの考え方は、顧客との関係を強化するのに貢献する。UXライティングがなぜ注目されているのか、UXライターの仲野佑希氏が解説する。

日本にネットショップが生まれた、1990年代後半。それから今日に至るまで、EC業界は大きく発展を遂げてきました。その下支えとなったのが、アメリカからノウハウが輸入される形で広まった、ダイレクトレスポンス型のコピーライティングです。古くはダイレクトメールやカタログ販売で使われていたセールス手法を、オンラインにも活用することで、企業はより強い販売力を手に入れました。

今やコピーライティングの技術は、書籍や講座で誰もが学ぶことができます。特に、心理学的なアプローチから、顧客の購買意欲を掻き立てる文章術などが人気のようです。

増加する「ダークパターン」

しかし、EC企業にセールスコピーのノウハウが浸透し、さらにはA/Bテストツールが普及するようになると、いつしかビジネス本位な販売手法を取り入れる企業も増えていきました。数字ベースの改善は、売り上げの向上をもたらしますが、その一方で、ユーザーが不利益を被る可能性も孕んでいます。

近年、社会問題化している「ダークパターン」は、その代表例です。ダークパターンとは、UXデザイナーのハリー・ブリグナル氏が提唱した概念で、ユーザーを騙したり、欺いたりするインターフェースデザインのことを言います。例えば、メルマガ登録のチェックボックスに、あらかじめチェックが入っていたり、ユーザーを解約させまいと、複雑な解約プロセスを設計していたりするサイトも、すべてダークパターンです。中には、偽物のカウントダウンタイマーを販売ページに表示させて、消費者の切迫感をあおるECサイトもあります。

このコロナ禍でサービスのデジタル化は、より一層加速しています。それに伴い、これまで黙認されてきたオンライン上の欺瞞的な販売手法が、消費者の間でも、少しずつ問題視されるようになってきました。

消費者庁の公式データ「詐欺的な定期購入商法をめぐる状況」によると、2015年から2020年の間で、定期購入に関するトラブルは、約14倍に増加しています。「一回きりの購入のつもりが定期購入だった」「Webで申し込んだけれど、解約方法が電話のみに限定されている」など、消費者にとって不利なサービス設計がなされているためです。2021年の日本経済新聞社の報道によると、日本国内の主要サイト6割で、ダークパターンが見つかっています。

このような背景に目を向ければ、オンラインショッピングの体験価値が、益々重要になることは間違いありません。大げさな表現や強引な売り込みなど、ビジネス本位なECサイトは、ユーザーから敬遠されることは容易に想像できます。EC事業者は、これまで以上に、消費者の視点に立ったサービス展開が求められるようになるでしょう。

体験価値を高めるUXライティングとは?

そのような中で、注目され始めているのが「UXライティング」です。「UXライター」は、言葉を通じてUX(=ユーザー体験)を設計する専門職のライターであり、欧米圏のテック企業には、UXライターのポジションを用意している企業が数多く存在します。

UXライティングと従来のコピーライティングの役割には、明確な違いがあります。コピーライティングの目的は、商品を販売したり、認知を高めたりすることですが、UXライティングは、ユーザーがつまずくことなくタスク(検索や購入、決済など)を実行できるようにサポートするのが目的です。

オンラインサイトにおいて、ボタンの文言や、メニューのラベル、エラーメッセージなどは、その1つひとつが重要な役割を担っています。これらは一見目立たない、地味な存在に思えますが、ユーザーが商品を購入したり、発送先や決済情報をスムーズに入力する上で、どれも欠かせない存在です。きらびやかな言葉で読み手を惹きつけるコピーライティングとは異なり、UXライティングは、むしろ全く気付かれないことを目指し、縁の下の力持ちとしてユーザーを支えます。

例えば、ECサイトの会員登録画面について考えてみてください。多くのECサイトでは、会員登録に必要な情報として、電話番号や、生年月日の入力欄を設けています。これらは、よく見かける一般的なフォームの仕様に思えますが、ユーザーの立場に立ってみるとどうでしょうか。自分の電話番号や生年月日が、どのように企業に使われるのか不安に感じるでしょう。ユーザーは、できることなら「個人情報は提供したくない」と考えているからです。

このようなユーザーの心の機微を汲み取ることができれば、ユーザーにどのような言葉を投げかけるべきかは明らかです。「なぜ、電話番号の...

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