販売促進の専門メディア

           

購買の動機、意義、価値を生む 顧客理解とOMO

UX起点で考える OMOの次のステージ

前田良樹氏、岡本静華氏(電通デジタル)

OMOへの取り組みは手段ではない。UX(User eXperience)を起点にするからこそ、そこにビジネスチャンスが生まれる。では、UXから考えると、今後どのような変化が起こっていくのだろうか。OMOの次のステージについて、電通デジタルの前田良樹氏と岡本静華氏が解説する。

今まさに語られているOMOにのみ注目してもフォロワーの立場は続くばかりだ。本稿では、より視座を高くし、「OMOの次のステージ」に向けて起き始めている変化を捉え、その世界観や企業に求められる事柄に思考を巡らせてみたい。

「ゼロ・ディスタンス」の破壊力

今日、UX重視は当たり前になっているが、UXアプローチは生活者の購買行動にどのような変化をもたらしたのだろうか?

古くは江戸時代の越後屋から始まるリテールのUX革新の歴史は、「棚と人の距離」の変遷と重なる。多くの人が商品棚に陳列されたモノを買うために、「酒屋」や「呉服屋」がある都市へと移動し、電車や車で生活圏内にできた「百貨店」に赴くようになり、徒歩圏内にできた「コンビニ」に通うようになった。

そうして徐々に「棚と人の距離」が近づいた末に、ECとスマートフォンの普及によってついにその距離は20cmにまで縮まった(図1)

図1 購買行動の歴史
購買行動の歴史は、「棚と人の距離」を縮めてきた歴史

では、「棚と人の距離」はもう縮まることはないのだろうか?

我々は、「その距離はゼロになる=ゼロ・ディスタンスが実現される」と考え、この進化は生活者にとって究極の購買体験をもたらすと確信している。

詳しく説明しよう。今でもモノを購入する際には、「欲しいと自覚し、選別・比較し、決定する」というプロセスが欠かせない。しかし、「ゼロ・ディスタンス」の概念からすれば、この過程は抜け落ち、「買い物をしなくとも欲しいものが自動的に届く」、能動的に行動せずとも購買行動が完結する未来が見えてくる。

この話には「SFのようだ」との指摘も出てきそうだ。だが、先述の通り、歴史的に「棚と人の距離」は縮まってきた。それがいよいよゼロになる日が来ないとは断言できないだろう。むしろ、オンラインもオフラインも意識せず、その意味ではOMOという概念さえも超越した消費の形態が日常に浸透することは確からしい未来だ。

実際に、その世界観が現実になる兆しはある。注目のテックトレンドのひとつ「IoB(Internet of Bodies)」はその筆頭格だ。IoBとは、身体がインターネットに繋がること。いわば、IoTの身体版といったところだ。

近年、スマートデバイスを身に着ける人は増えているがそこから得られる血糖値や心拍などの生体データを高度に活用できれば、「毎日15時頃に血糖値が下がるので(自動的に)軽食が家に届けられる」といった体験を生み出すことは難しくないだろう。IoBとサブスクリプションサービスを組み合わせた形だ。

つまり、身体から発せられる信号がそのまま購買と結びつき、買い物にまつわる煩わしさが解消され、生活者は意識しなくても物質的に充足した日々が過ごせるようになる、というわけだ。企業が喉から手が出るほど欲している「生活者の生のデータ」がより詳細に得られれば、さらに複雑なサービスも実現可能になるだろう。

当然ながら、実用化には、個人情報保護やプライバシーの問題、倫理的な観点などクリアすべき課題は山積している。だが、それを解決した時、購買行動の歴史は根底から覆るはずだ。その破壊力は計り知れず、販促やマーケティングにも大きなゲームチェンジが起きるに違いない。

では、「ゼロ・ディスタンス」時代において、企業には何が求められるだろうか?

それは間違いなく「信頼感」だ。生活者が企業に対し、ほぼ全ての個人情報を預けてもいいと思えるほどの信頼感や共感を持てなければ、サービスは生み出せず、企業は存続できなくなる。

「Empathic-UX」こそ企業が取り組むべきテーマ

前述の考えを下敷きに、私たちは「Empathic-UX」という概念を提唱している。

これまでも企業はユーザーの共感を得ることに尽力してきた。その代表的な切り口の一つに「サステナブル」がある。一般的なサステナブルな取り組みは原料調達や製造、流通といったプロセスに集中しがちである。「Empathic-UX」では、「サステナブル」な取り組みをユーザーが体験したくなるプロダクトやサービスにまで拡張するコンセプトである。

この概念は時代の変化を受けたものでもある。SDGs(持続可能な開発目標)への関心や、ESG(環境・社会・ガバナンス)が企業評価の新たな尺度として知られるようになったことに加え、コロナ禍に端を発する社会の混乱は...

あと60%

この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。

お得なセットプランへの申込みはこちら

購買の動機、意義、価値を生む 顧客理解とOMO の記事一覧

リアル店舗とオンラインショップの使い分け
UX起点で考える OMOの次のステージ(この記事です)
そごう・西武が取り組む リアルとデジタルが融合した次世代型店舗
OMO対応の重要性 お客さまとの継続的な関係の構築
販促会議Topへ戻る

無料で読める「本日の記事」を
メールでお届けします。

メールマガジンに登録する