2019年7月に発売されたコクヨのIoT文具「しゅくだいやる気ペン」は、「文具にセンサーを付けられないか」という発想で3年かけて開発が行われた。苦難の連続を乗り越え商品化にこぎつけた中井信彦氏にその道のりを聞いた。
DATA
- 商品名:しゅくだいやる気ペン
- 参考小売価格:6980円(税込)
- 累計出荷数:1万5000本(2021年3月時点)
- 主な販路:書店、ホームセンター、家電量販店など全国約150店舗、自社ECサイト、Amazon
「第三の事業の柱」を目指す
──「しゅくだいやる気ペン」はどのような商品ですか。
加速度センサーが搭載された専用アタッチメントを、一般的な鉛筆に装着。鉛筆の動いた時間を計測して、LEDの光の色が変化したり、Bluetoothで専用スマートフォンアプリと連動させます。鉛筆の動いた時間に応じてアプリのビジュアルが変わることで子どものやる気を刺激。勉強した過程や学ぶ楽しさを伝えるIoT文具です。2016年から開発をはじめ、リリースまで3年の月日を要しました。
──着想のきっかけと当時の文具市場の状況は。
きっかけは、新規事業開発を手がける私たちの部署が、一般的な文具やオフィス家具に次ぐ「第三の事業の柱」をつくるというミッションを課せられ、その中のひとつとしてIoT文具が候補に挙がったことにありました。
一般的な文具は利用データを取ることができません。ユーザーの声を知るにもアンケートやユーザーインタビューしかなく、定量的な利用状況を知るのが難しい状態でした。
そこでどの文房具に、どのようなセンサーをつければいいか考えるところからスタート。ハサミやテープカッターにセンサーを取り付けるアイデアもありましたが、データの用途が思い浮かばずとん挫しました。
──そこからどのように「鉛筆用アタッチメント」へと方向転換しましたか。
デジタル端末が普及し「ノートに書く」ことが少なくなってきた今の時代。ノートを主力商品とする当社として、鉛筆で書くことの意義を改めて考え直してみようと思いました。
当初、共働き家庭が仕事中に子どもの勉強状態を知るための「見守りツール」として検討したものの、アンケートを取ると「ツールがなくても子どもを見守れている」ことが判明。そもそもニーズがないと分かり、プロジェクト自体がストップしてしまいました。
その後、もう一度「IoT文具で誰を幸せにできるのだろう」と考え直して再スタート。勉強する子どもと、学習状況を心配する親を幸せにできるのではないかと考えました。そこで30人近くの親に、子どもが宿題をしている様子の動画を撮影してもらいました。
その動画を見たところ、今も昔も変わらず、子どもが途中で飽きて遊び始め、親が我慢できなくなって怒るというシーンばかりでした。そこで、親と子のコミュニケーション齟齬を解消して楽しく勉強してもらいたいと「しゅくだいやる気ペン」を...
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