『贈り手』と『受け手』の視点、贈答文化から新たな消費を生み出す
古来から存在する、消費を生み出す贈答文化。この市場は大きく、タイミングを捉える販促活動において重要だ。消費文化を研究する著者が、企業が知るべき点を解説する。
1年を過ごす中で起こる歳時・記念日。自社の販促にとって重要なタイミングはどれか。機会を捉えるための考え方、現在の状況について解説する。
ハレとケに生活を分けるという考え方があります。普段の日常は「ケ」の日、お祭りや歳時・記念日、お祝い事を行う特別な非日常は「ハレ」の日とされます。ハレの日には贈り物やごちそうを用意し、着飾り、人が集まり、楽しい時間を過ごします。歳時や記念日は生活者の特別な気持ちや行動によって消費が起こるマーケットチャンスです。
歳時とは、一年の中での機会や出来事です。古くから豊作や健康、幸せを祈る行事が行われ、季節が変わる目安でもありました。お正月・節分・ひなまつり・お盆・冬至などは伝統的な歳時として今に続いています。またクリスマスやハロウィンは欧米の歳時ですが日本でも定着しています。
記念日とは、記念すべき出来事があった日です。このような定義ではバレンタインデーやクリスマス、また誕生日や結婚記念日など個人的な記念日も含まれますが、本稿では国や国連などが制定した日、自治体が地域や特産品のPRのために制定した日、企業が商品やサービスの販売促進などのために制定した日とします。
今回は歳時・記念日の特徴や活用事例を整理し、消費へのつなげ方を考えます。
おもな歳時・記念日は図1を参照してください。歳時・記念日は社会や価値観の変化、消費と深く結びついています。その変化を捉えた企業や団体などが歳時・記念日を発見または創造し、販促活動に活用してきました。
古い例に「土用の丑の日」があります。土用の丑の日に鰻を食べる習慣が広がったのは江戸時代後半で、一説には江戸時代の学者であり発明家の平賀源内が知人の鰻屋に頼まれて「土用の丑の日に鰻を食べると暑さ負けしない」と宣伝し流行したといわれます。江戸時代後半は食文化が進化した時代であり、歳時は江戸時代においても販売促進に活用されました。
外来の歳時が日本で広がった事例にバレンタインデーがあります。欧米ではこの日に男性から女性にカードやギフトを贈り、また男女間だけでなく家族や友人同士でもギフトを贈り合う習慣があります。日本では1950年代に女性から男性にチョコレートを贈り、愛を告白する日として広がりました。日本の製菓メーカーや百貨店の発案で始まったといわれます。
1950年代は戦後、経済が成長し生活者が欧米文化に憧れる時代になりました。また女性の社会進出が進んだ時代です。女性から男性に愛を告白するという背景には、新しい時代が到来する予感と洋菓子のチョコレートの結びつきがありました。社会変化を背景に生活者の共感を得た事例といえます。
節分に太巻きを食べることが広がったのは比較的新しく1990年代です。スーパーマーケットやコンビニエンスストアの販促によって全国的に広がりました。1990年代は食の簡便志向が高まり、またコンビニエンスストアの店舗数が右肩上がりで増加しました。スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどで購入することで簡単に用意できる太巻きと、恵方を向いて無言で食べると縁起が良いというメリットが重なり、マーケットが拡大していきました。
記念日の例では、最近、猫の日(2月22日)を楽しむ人が増えています。この日は猫をモチーフにした商品の販売やイベントの開催で盛り上がります。猫の日は1987年に制定された記念日ですが、猫の人気の高まりとともに改めて注目されました。
クレオでは歳時・記念日に関する生活者調査を毎年実施し、生活行動を分析しています。図2はおもな歳時・記念日の直近の実施率です。
歳時・記念日に関して何らかの特別な行動をした人は正月では9割を超え、節分・クリスマスは7割弱、バレンタインデーは6割弱となっています。新型コロナウイルス感染拡大は消費需要を減少させましたが、歳時・記念日の実施率では全体的には大きな減少はないといえます。制限の多い状況だからこそ、ハレの気分を楽しみたい人が多いのではないでしょうか。
また、各項目の実施率と支出金額から推計した支出規模(図3)をみると、実施率の高い正月と節分とでは支出規模に差があります。実施率に加えて支出規模を推計することでマーケットの規模感が把握できます。