防災への関心を高めるため東京消防庁が立ち上げ、SNSをはじめとして話題となった「ボウサイ島」。本プロジェクトはどのようにして生まれたのか。
東京消防庁 防災部 防災安全課 統括(消防司令補) 櫛谷修央 氏アジャイルメディア・ネットワーク マーケティング部 部長/エバンジェリスト 出口 潤 氏 |
100以上の防災施策案から選出
──はじめに、人気のゲーム「あつまれ どうぶつの森(あつ森)」を活用した東京消防庁の取り組みについて紹介いただきます。
櫛谷:「あつまれ どうぶつの森」の「ボウサイ島」に勤務する「あつお君」というキャラクターが生まれた経緯や彼の活動の紹介を通して、東京消防庁での取り組み事例をお伝えします。
私が所属している防災安全課は、防災訓練の指針策定やイベントの企画運営、広報素材の作成などを担当しています。「一人でも多くの都民が防災への関心を高め、行動に移してもらう」という東京消防庁の重点施策のもと、都民への防災に関するコミュニケーションを行っています。これまで、自治会や各種学校の施設で年230万人に防災訓練に参加してもらってきました。しかし、2020年2月頃から人との接触がある対面式の活動は激減。既存のコミュニケーションによらない新たな取り組みが求められていました。
そのような社会の変容を見据え、組織内で新しい防災施策についての企画提案コンペを実施。100以上の提案が職員からのボトムアップで誕生し、その中のひとつが「わかりやすい情報発信」施策としての「あつまれどうぶつの森(あつ森)」の活用でした。
そもそも「あつ森」とは、好きな家具を集めて家づくりや街づくりを行いながら、無人島での暮らしを楽しむというゲームです。このゲームを活用しようとしたきっかけは、家具の配置ができる機能や自分で自由にデザインを描ける「マイデザイン機能」など、消防防災との深い関連性があると感じたためです。
また、国内で500万本もの販売本数があることから幅広いターゲットへの訴求力があること、東京消防庁が取り組むという意外性、当時は行政機関としては全国初の取り組みだったという経緯もあり、プロジェクトチームが発足、あつお君が誕生しました。
プロジェクトチームの活動について初期(6〜7月)、拡大期(8〜9月)、応用期(10〜11月)の3つの時系列に分けて説明します。
まず、初期(6〜7月)に行ったことは任天堂へのコンタクトです。「できること・できないこと」の整理を行い、画像や映像を使ったSNS発信を行うことを決めました。他のあつ森活用団体との差別化を図るため、東京消防庁の職員として年齢、階級、出身地、好きな食べ物などキャラクターの詳細なパーソナリティーを設定し、消防庁の制服を精密にデザインしました。また、少しずつ開放されるゲームの機能を研究しながら、広報内容を落とし込んでいきました。
意外性から注目を集める
最初のツイートは、「予告編」として制服を飾った家の中であつお君が何か準備しているような雰囲気を醸し出した画像の投稿でした。東京消防庁のフォロワーの方々に「なんだこれは」と注目していただいたり、新聞社の方に取り上げていただいたりもしました。
熱中症が全国で注意喚起された時期には「室内熱中症防止編」を投稿。暑そうな画像と涼しそうな画像になるように物を配置し動物たちにリアクションさせ、カメラのフィルター機能も使用しています。ゲームの発売から4〜5カ月経過し活用する団体が増加する中、初歩的なマイデザインや家具の配置機能以外のアイデアが必要だと感じ工夫を凝らしている時期です。
拡大期(8〜9月)になると、徐々にメディア露出も増加。都民の方の反応を確認するため、ソーシャルリスニングを行いました。
防災週間(8月30日〜9月5日)や防災の日(9月1日)に向けた戦略も立てました。まず事前に行ったのは、重要な地震対策のひとつである「家具転(かぐてん)対策(家具類の転倒・落下・移動防止対策)」の...