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実店舗・EC 衝動買いを生み出す秘訣

なぜ販売促進に行動経済学を活用すべきなのか?

橋本之克(マーケティング&ブランディング コンサルタント)

多く耳にするようになった行動経済学。様々な法則などが発信されているが、本稿では、販売促進への活用に焦点を当てて筆者が解説する。

行動経済学は、わずか15年ほどの間にノーベル経済学賞受賞者を3人も輩出し、広く注目を集めています。この学問は、人間が心理的バイアスに影響されて不合理な行動を行ってしまうこと、また、そのメカニズムについて明確化しています。アダム・スミス以来200年以上にわたって、経済学では「人間は合理性に基づいて行動する」という考えが常識でした。ところが、これが机上の理論であることを、行動経済学は示しました。経済学における人間の捉え方を、現実に即したものへと改めたのです。

さて昨今のマーケティングでも、同様の流れがあるように見えます。例えばAIDMAやAISASのような、「購買行動が定型的なプロセスをたどる」ことを前提とした手法の限界が見えてきました。これは「購買において人間が合理的に行動しない」ケースが増えたためであろうと私は考えています。

購買行動を定式化できない状況で、最近は「人間は、メディアなどの情報に瞬間的に反応して購買する」と捉える傾向が見られます。典型的な理論は、今や巨大なメディア企業となったGoogleが主張する「パルス型消費行動」です。

例えば、空き時間にスマホを操作しながら、瞬間的に買いたい気持ちになり、買いたいと思う商品を発見し、その瞬間に買い物を終わらせる購買行動です。しかしながら、この前提でマーケティングを行うならば、限りなく多くの情報接点を、24時間提供しなければならないという結論に至りかねません。このようなアプローチでは、コストが上がる一方です。そこで本稿では新たなアプローチとして、行動経済学の活用を提案したいと思います。

顧客の不合理な行動には、多様なバリエーションがあります。時に顧客は、はやとちりで購買を決めます。また損を避けようとしながら、高額な方を選んでしまいます。すぐに手に入るというだけで、価値が高いと信じるケースもあります。実は、これらには一定の傾向があり、行動経済学における、様々な法則として整理されています。販促活動での活用は有効です。ここからは行動経済学の法則や、事例の一部について実務に活かせるように紹介していきます。

図1 行動経済学と経済学の違い

Go To Eatでの貨幣錯覚

最初の事例は、緊急事態宣言発令に伴い2021年1月中旬時点では停止されている「Go Toキャンペーン」です。「Go To Eatキャンペーン」は、国が感染予防対策に取り組む飲食店の需要を喚起し、同時に食材を供給する農林漁業者を支援するものです。

施策の1つである「プレミアム付食事券」は、「販売額の25%」を国が負担します。例えば、1万2500円分の食事券を1万円で購入できるわけです。関連サイトでは「25%おトク」とアピールされていました。実はこの数字には、ちょっとしたマジックがあります。1万2500円分の食事をして、代金が1万円で済んだケースを考えます。差額の2500円は本来払うべき1万2500円の20%なので「20%割引」という表現も可能です。

「25%を国が負担」と「20%割引」の2つは異なる表現ですが、どちらも間違いではありません。しかし結果的には、多くの消費者が25%の得と認識しました。行動経済学では、この現象を「貨幣錯覚」と呼びます。お金に関して人間は、実質的な値ではなく表面的な値に基づいて物事を判断してしまうのです。このキャンペーンでは、お得感の強い数字をアピールしました。行動経済学の考え方を用いて、消費者の無意識の心理を操作し、飲食店の利用促進の効果を高めたわけです。

IKEA効果で売れたカット野菜

2020年の半ば頃は、コロナ禍の影響でステイホームが呼びかけられていました。店舗での密を避けるため、来店促進の折込みチラシも自粛傾向です。そういった時期に、通常と異なる現象がスーパーマーケット内で起こっていました。「カット野菜」の売上が平常時と比べて大きかったのです。別段、商品の中身や値段が変わったわけではありません。だとすると、何が影響したのでしょう。行動経済学の...

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