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実店舗・EC 衝動買いを生み出す秘訣

コロナ下で人々が求めるのは「購入体験」というエンターテイメントである

中山淳雄(ブシロード 執行役員)

エンタメにおける、その場限りの消費。限定された空間での衝動買いと言えるその行動を、エンタメ社会学者の筆者が考察する。

2020年は夏から半年間、全6回にわたって「推し」特集(アドタイ掲載コラム「“推し”が生む圧倒的な熱量と消費──キャラクタービジネスのこれから」シリーズ)を展開してきた。マンガ・アニメ・ゲームのキャラクターに愛情を注ぎ、商品を購入していくユーザーの実態を追った。

それは「消費」ではなく、「表現」するためのグッズ購入であり、さらにはそのキャラを演出する世界を自身が手伝って再現していく「生産」まで行っていくファンたちの姿であった。ファンの購買力は、一般的なカスタマーの10倍にもなる話もまた以前述べた通りだ(アドタイコラム「1人あたり消費額は約10倍!人々が熱狂する“推し”とは?」参照)。

かといって「商品を売るには、ファンをつくるべき」というマーケティング言説は、正直何の意味もなさないトートロジーである。商品を買った時点で、そのユーザーはファンになっている。ファンをつくるというのはある意味、結果指標でしかなく、一般的カスタマーをファンに変えるプロセスを明らかにしない限りは、その言葉は次のActionを誘発するものにはならない。

マスメディアを代表する「情報を伝える」行為は、いわゆるプッシュ型である。商品の情報を伝えて、ユーザーの購買行動を誘発する。プッシュ型で購入に結びつくのはあくまで生活必需品のように「買うことが決まっていて、十分に種類がある中で認知したブランドを買う」という成熟した機能材の話である。

だが私自身が携わるゲームやアニメといったエンターテインメント商品は、興味のないカスタマーにとっては無料でもらっても価値をもたないものでありながら、興味があるファンにとっては金額に代えがたいほどの価値をもつ商品である。商品の良さを訴求しても、0のユーザーには0であり、1のユーザーには100にも200にもなる。そこではマスメディアは1つのきっかけに過ぎず、購買に最終的に帰着するのはスマホ中心のインタラクティブメディアの役割である。

「ナマモノ」コンテンツ

“マス”メディアという表現はシニカルな響きに聞こえる。テレビ・新聞・ラジオ・雑誌といったメディアは(団塊世代のおかげで人数だけでいえばまだマスを呼称できるが)、発信型メディアであり、あくまで「受信」を消費のトリガーとするユーザーにのみ通用する。マスメディア世代にとって、メディアはあくまで「受信」をするものなのだ。

心地よい商品イメージやテーマソングに影響を受け、認知から興味に関心が移り、その心地よさを自らの生活に取り込もうと欲望が生まれ、購入する。1920年代から存在する20世紀を代表するマーケティングプロセスである。

だが、ゲームやスマホで育った世代にとって、メディアは解釈し、シェアし、時には自らがそのコンテンツを提供する、といった「発信」するものになっている。

図1で年齢別のメディア消費時間をみれば、あらゆる世代が7時間以上もメディアに接している。だが、その中身はご存じの通り大きく入れ替わっている。60代は5時間以上かける“マス”メディアも、今の10代は2時間にも満たない。テレビはまだしも新聞・雑誌・ラジオに傾ける時間など、スマホでゲームする時間にも及ばないのだ。むしろスマホに4時間、PC・タブレットも入れれば6時間前後インターネットメディアだけをいじっているのが今の10代、20代なのだ。

図1 2020年時点の年代別メディア消費時間(1日あたり)

出典:総務省「平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」、博報堂DYメディアパートナーズ「メディア定点調査2020」

スマホ世代の課題は、マルチタスク(複数コンテンツ消費)とハイパーアテンション(過剰な分散注目)である。数分間だろうと、アクセスをしない状態に耐えられない。若者の1日あたりのコミュニケーション数(メール、チャット)は平均でも100通に及ぶといわれる。ブラウザを開きっぱなしの複数画面でゲームしながらLINEを確認し、30分前に何を読んで何を話したかはすでに忘却の彼方。気ぜわしく大量の情報を消費しながら、その実...

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