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流通・メーカー 店舗と商品の活用

日日是変身 リ・ポジションのススメ

井口 理(電通パブリック リレーションズ)

コロナ禍は、既存商品の売り方を変えている企業が多く見られる。対象者や使い方を変えて提案するだけで、新たな価値を見出せる。そのヒントとなるリ・ポジショニングについて解説する。

モノがあふれ、また差別化できない時代。コモディティ化した自社商品を持て余している企業も数多く存在するだろう。また、社会においてはコロナ禍によって顕在化したニューノーマルな価値観が、急激に浸透してきている。そんな中、既存商品を再定義するためのちょっとした視点を共有したいと思う。

自身の固定観念を捨てる

「かわいい子には旅をさせよ」というが、まさに愛する自社商品をすぐに目が届く箱庭のような環境だけで育てるだけでなく、社会環境にさらし、その反応を観察してみてはどうだろうか。これまで「うちの子はこんな性格」「これが得意で、これは苦手」などと思い込んでいた我が子が、自身の持っていたイメージを大きく逸脱し、いろいろな可能性を切り開き、またその成長具合を見せてくれたならば、こんなにうれしいことはないだろう。

企業が開発した商品は、もちろんつくり手の意思をもって生まれてきたはずだ。「こういったターゲットに、こういうシーンで使ってもらうことで、こんなベネフィットが提供できるはず」。そのような思惑を背景に、商品開発され、またそれらターゲットに理解、評価されるように、そして愛され続けるように商品をプレゼンテーションしてきただろう。生活者側もそれを気に入れば継続購入し、すぐにその商品は個々人の日常に溶け込み、既になくてはならない存在として定着しているのだと思う。

もちろん、企業側にとってロイヤル・ユーザーというのはありがたいもので、新規顧客を獲得するコストよりも、よっぽど既存顧客をつなぎ止めておく方が効率的だし、またそこからの情報波及も期待できる。いわゆるファン・マーケティング的な効果というやつだ。しかしそれも市場が以前と同様の状態で存在していてこそではなかろうか。マス市場を成してきた、安全安心第一の志向を持つシニア消費世代が細りゆくその後に、同様のことを期待できるのだろうか。

そうでないとすれば、これまでの商品は推奨者が徐々に減り、その行き場を失ってしまうかもしれない。そこで我々は新たなターゲット層におけるこれら商品のリバイバル作戦をすぐにでも検討すべきなのだ。

ロングセラーという名の怠慢

よく企業の担当者からロングセラー商品のプロモーションを相談されることがある。その時に必ず言われることが「もうかなりのロングセラー商品なので、新たに打ち出すというネタ的なことは何もないんです」といったくだり。「それではどうしろと?」とこちらも聞き返したくなるのをいったんこらえて、そのロングセラー商品のセールスポイントや、それを軸としたターゲット論などを聞き出していく。

なるほど、よく見聞きした商品特長であり評価であり、しかしこのままではワクワクしないというのが本当のところ。「この人たちに売れているから、それが少しでも長続きするように」ということが目的なら、なにかの拍子に継続購買から脱落した人たちへのリマインドとして広告なりなんなりでアテンションすればよいのだろう。

とはいえ、その効果は極めて限定的ではなかろうか。シュリンクしている市場にあって、なんとかその存在を生き永らえさせることを考えているくらいなら、一度これまでのターゲットを全く離れて商品そのものの本質的価値を考え直してみることをご提案してみたい。

新たな存在に生まれ変わる

先にも述べたが、思い入れが激しいほど、思い込みは強くなっているものだ。自分が思う理想像しか頭にはなく、そのイメージの中で想定されるポテンシャルに商品は束縛されてしまう。そこで少しだけ我々の想像を解放し、商品に自由な振る舞いをさせてみるのである。よりどころにしてもらいたいのはの「リ・ポジショニングのための軸ずらし」だ。ここでは「ターゲットを変える」「使い方を変える」「シチュエーションを変える」の3つの視点を紹介している。1つずつ見ていこう。

図 リ・ポジショニングで新たな価値を見出す

筆者作成

まず「ターゲットを変える」では、初期設定のメインターゲットをズラしてみようということ。そもそもターゲット設定は、年齢、性別、地域、職業、趣味嗜好などデモグラによる分類からなされているのが常だ。しかしこれまでターゲットとしてこなかった層に、この商品をアピールするとしたらどんなセールストークが考えられるのか、あるいはそのような層にアプローチするとしたらどのような機能を付加するべきなのかを考えてみると、いろいろとその商品のポテンシャルを拡張するアイデアが浮かぶようになる。

高級スキンケア化粧品の「SK-Ⅱ」は発売当初は40〜50代の女性をターゲットに「現状の肌を回復し、良い状態でキープしてくれる」ことを売りとして、この年代に高い評価を得ていた。桃井かおりさんや小雪さんといったタレントCMとも相まって人気を博していたが、その後に20代女性にもターゲット拡張を図るため新たなアプローチに取り組んだ。

それは、今感じる不具合ではなく、将来的な不具合を前もって回避する策として「SK-Ⅱ」を位置付け、新たに綾瀬はるかさんをCMにも起用しプロモーションを展開したのだ。すでに40〜50代での高い評価があったがために、「私も40代になったら考えよう」と使用を先送りしていた若年層が、一気に自分ゴト化し、これを...

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