企業としての競争力を高めるため、「DX」が求められる昨今、マーケターに必要なことは本質理解だと岸波氏は語る。ここでは、見失いがちなDXの構造からゴールまでを再解釈する。
DXの3段階を再解釈
DXという言葉が耳慣れた言葉になってきている一方で、言葉できちんと説明できる人は少ない印象です。皆さんも試行錯誤されている途中なのではないでしょうか。今回は、DXの本質に触れ、DXを我が物にして、より実りのある取り組みのテーマとして捉えられるようなお話ができればと思います。
まず、DXの定義について、Wikipediaには「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」とあります。皆さんは業務の中でDXを都合良く解釈している部分もあるかもしれませんが、DXという言葉が指し示す意味でいうと「人々の生活をあらゆる面でよりよい方向に変化させる」という点を見据える必要があるといえます。
DXには3つの段階があるといわれています(図1)。
1段階目はデジタル化です。例えば、フィルムカメラをデジタルカメラに変えることなどがそれにあたります。2段階目はデジタライゼーション。デジタルに置き変わったものを中心にして、それがどのような仕組みの中でより有用に市場やパートナーに流れていくのか、全体の仕組みそのものを捉えていくことです。
先ほどのようにカメラで例えるならば、デジタルカメラ化することで写真現像工程がなくなり、オンライン上で写真をデータで送受信する仕組みが生まれたというようなことです。このような一連の仕組みはカメラメーカーだけでなくSNSなどの様々な枠組みの中で、流通価値・共有価値が生まれてきました。
3段階目はデジタルトランスフォーメーション、いわゆるDXです。DXはデータを流通させたり活用したりする仕組みが前提にありますが、デジタルを駆使して根本的な価値や構造が変わっていく様子がトランスフォーメーションの方向性です。
つまりDXとは、今までしてきたことを単にデジタルに置き換えるということではなく、デジタルの本来的な革新を意味します。具体的な例をあげるならば、キャッシュフロー構造の変化でしょう。お金を出す人・お金を入れる人が変わり、そのお金の多寡も変化する。つまり、価値が変わることによって、今までお客さんではなかった人がお客さんになる。これもDXのひとつの恩恵です。
しかしすべてにおいて価値の枠組みを変えていくことは、当然、社員1人、あるいは企業1社ではなしえません。すべてのステークホルダーがデジタルを理解し、DXに取り組んでいく必要があります。従来の売り手と買い手の関係だけのビジネス構造では、デジタルトランスフォーメーションを生み出すことはできないのです。
ゴールはビジネス創出
ここで、経済産業省の「DXレポート」より発表された「2025年の崖」という言葉を引用します。要点は3つ。
1つ目は、膨大なデータを活用しきれず敗者になるということ。つまり、デジタル化に乗り遅れた企業や人に対しての警鐘です。1990年代以降、インターネットの普及と同期的にデジタル化・データ化が行われてきました。冷蔵庫ほどの大きなサーバーをつくることが主流だった時代から、時が経過するにつれてどんどんダウンサイジングされていきました。
2000年代に入ると、重要なデータは自分の端末に入れず、すべてネットワーク上で共有をするシンクライアント化の価値が促進。それに伴い、既存のシステムを淘汰し、新しいネットワークシステムに置き換えていこうというレガシーマイグレーションの動きが高まりました。
ただ、一部の企業ではいまだにレガシーな仕組みをそのまま導入して使い続けているということもよく聞きます。レガシーなシステムの処理能力では膨大なデータに太刀打ちできないため、一部のデータだけしか...