通勤・通学や買い物などの動線上で目にする交通広告。近年はデジタル化が進み、スマホとの連携事例が増えている。鉄道メディアをメインに、種類や最近の動向を紹介する。
「交通広告」は生活者が交通機関の利用に際して接触するメディアであり、電車の車両や駅、空港、バス、タクシーなど、そのジャンルは多岐にわたる。また交通広告はビルボードやビル屋上のビジョンなどの「屋外広告」と合わせて「OOH(Out of Home)」メディアと総称される。
電通が2020年3月に発表した統計データ「2019年日本の広告費」によれば、交通広告のシェアは3.0%と大きくはないが、東京・名古屋・大阪などの通勤・通学利用者が多い都市圏では、リアルに接触するメディアとして高いリーチがあり、広告主に評価されている。
同資料では交通広告・屋外広告ともに前年を超える伸びを示しており、これは後述するデジタルサイネージの普及拡大と、残念ながら延期されてしまった「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」に向けて、広告スペースの新設・リニューアルが促進されたためと推測される。なお交通・屋外を合わせた「OOH」のシェアは7.6%となり、インターネット、テレビに次ぐ「第3のメディア」となっていることにも注目すべきである(図1)。
本稿では交通広告の特性や効果、活用事例、最新のトピックスについて、主に鉄道広告の事例を中心としてご紹介したい。
購買の直前に接触するメディア
交通広告は交通機関の利用により接触することから、いくつかの特性をもっている。一番の特長は生活者の動線に沿って、①強制的に②複数回接触するメディアであることである。(図2)に交通広告の強みを示す。
通勤・通学・ショッピング・旅行など、移動する生活者の動線に沿って、複数回の接触機会を強制的につくれることに加えて、屋外でいわゆる「買い場」の近くで接触するメディアであることから、購買行動を惹起する「リーセンシー効果」も期待できる。また屋内→屋外→屋内という広告訴求タイミングの中で、モバイルメディアはもちろんのこと、屋内型メディア(テレビ・インターネットなど)とのメディアミックス効果も期待できる。
他のメディアと異なり、駅・車両という生活者の利用環境に密着しているメディアであるため、習慣的に自然に目に入り視認される可能性が高いことは交通広告の特長であるといえる。
多様な交通広告の選択肢
交通広告は「車両メディア」、「駅メディア」に大別される。以下にそれぞれの代表的な広告スペースを紹介する。
車両メディアの広告スペースは(図3)のとおりである。車両内では中づり、まど上やドア横のポスタースペースのほかに、車内サイネージや各種ステッカーが商品化されている。車両メディアは、列車内という乗客が一定時間その場にとどまる環境にあるため、強制視認性が高い特性がある。また車体の側面をラッピングする車体広告も、注目される定番商品となっている。
駅メディアは通勤・通学など多くの人が定期的・日常的に接触する生活動線上にあり、長期掲出向けのサインボードや短期掲出を想定した駅ポスター、フラッグ・バナー・ステッカーなどのSP(スポット)メディアや駅デジタルサイネージなど広告主のニーズに合わせ、展開されている(図4)。
車両・駅に展開されているこれらの広告スペースは、広告主のニーズに合わせて、掲出期間やセット・料金などが設定されている。車両・駅の同時展開やそれをウェブ、テレビ広告と組み合わせることにより、より高い広告効果が得られる。
デジタルサイネージが普及
従来の交通広告は紙・シートなどの素材を掲出・撤去することを前提としたものが主流であった。交通広告にデジタルサイネージが導入されたことにより、時間帯やエリアで異なる、よりきめの細かい広告表現や、テレビやインターネット広告の動画素材を交通広告で同時展開することが可能になった。デジタルサイネージは様々なロケーションに設置され、既に社会インフラの一部となっているが、その普及の先駆けとなったのは車両・駅への広告メディアとしての導入であった。
2002年にJR東日本は山手線新型車両E231系のドア上部に2面の液晶ディスプレイを設置、右側には鉄道運行情報を表示、左側を「トレインチャンネル」と名付け、複数の広告コンテンツを表示することとした。このドア上部の広告用サイネージ「トレインチャンネル」は、首都圏各線区での新型車両導入に合わせて面数を増やし、現在ではほぼ全線区に搭載されている。
また2020年1月に...