コロナ禍の外出自粛や仕事の在宅化により、新たにECを始めた企業は少なくない。比較検討されやすいネット上で「選ばれ続ける」ための考え方について、楽天大学学長の仲山進也氏に聞いた。
これまでECマーケットは、インターネットの一般化、スマホの普及、SNSの浸透といったターニングポイントを経て、変化しながら発展を遂げてきた。2020年の新型コロナによる変化として注目したい点は、「初めてECサイトを利用する人」や「利用頻度が増えた人」が世界中で一気に増えたことだ。ここまで「すべての人が同時に行動を変えた」というのはこれまでにない大きな出来事であり、いま求められるのは小手先のテクニックよりも変化の本質を捉えられるかどうかであろう。
「なぜ売れたのか?」を理解できているか
「売上が急伸したネットショップが多いのですが、それで浮かれている人は危ういと感じています。もしかしたら最初に選んだ店で在庫が切れていて、次も、その次も⋯⋯で、仕方なく選ばれただけかもしれません。『なぜウチのお店で買ってくれたのか』を冷静に振り返って分析できている人は、おそらく少数派。でも、そこを深く考えた人だけが、本当に選ばれる価値を生み出し続けられます。『売上が伸びた!』と浮かれていたら、ほどなく苦しい状況に陥ることになるでしょう」と仲山進也氏は警鐘を鳴らす。
比較が簡単なECサイトでは、同種・同類・同等の商品が検索ボタンひとつで「価格の安い順」に並べ替えられてしまうので、商圏の概念なく日本全国の店の中から上位のひとつが選ばれることになる。
「地区大会で優勝できても全国大会では通用しなかった、というのと同じ。すでに買うものが決まっている買い物のしかたを“検索買い”と呼んでいるのですが、その場合、全国大会で通用する強みや魅力がなければ相手にされません。ましてや、片手間にやっている後発ショップが、10年も20年も続けているお店よりも選ばれ続けることはまずありません。開店キャンペーンなど赤字覚悟で価格を下げても、売れるのはその時だけ。そんな価格競争で消耗しきった人をどれだけ見てきたか⋯⋯」と仲山氏。
自動販売機でなく「人気(ひとけ)のあるお店」に
一方で、買うものが決まっておらず、「何かいいものないかな」と探している買い方が“探索買い”だ。そのお客さんに対して「商品以外の価値」をうまく打ち出してコツコツとファンを増やしているショップもある。そして、「ECとは検索買いを対象にした“自動販売機型”のビジネスだ」と思い込んでいる人にはなかなか理解できない部分でもある。
自分がECユーザーとして検索買いしかしない人は、ECサイトの価値を「買い物という行為にかかるコスト(お金・時間・労力・思考・不安)を最小化するもの」だと考えているため、「選ばれる価値」で重要なのは「価格と納期、注文し慣れていること」と思いがちだ。
ここで大事なポイントは、「選ばれる価値」に「商品」は入っていないことである。買うものが決まっている場合、お客さんが「そのお店を選んだ理由」は「商品以外の価値」にしかない。売上が伸びた理由を、「商品がよかったからだ」くらいの認識しかしていないと危うい。むしろ「商品に価値はない」と考えるところからスタートするほうが、まちがいにくいと言える。
「先日、ネットショップ店長の集まりで、コロナ以降にユーザーとして『いいネットショップを見つけた!』という体験はあったかどうか尋ねたところ、『ない』と答えた人がほとんどでした。しかも、自分が検索買いをしているときはお店の名前も認識しないで買っていると気づいて、EC運営者として『売上が伸びたと浮かれてはいられない。お客さんを大事にしよう』という話になっていました」。
そう言う仲山氏自身は、コロナ期間に見つけた「いいネットショップ」があるという。
「ピラミッドではない組織を研究しているうちに、縄文型フラット組織と弥生型ヒエラルキー組織という対比にたどり着いて縄文文化に興味がわいていたところ、たまたま楽天市場で縄文土器や土偶のレプリカを製造販売しているお店を見つけたんです。ブログを見たら、工房で作業している写真とともに火焔式土器を1カ月かけてつくったことが書いてあったりするんです。特に、楽天の人間だと名乗ることなく店長さんとやりとりするうちに、『こんなセットはできませんか?』と尋ねたら『やりましょう』とページをつくってくれました。届いた土偶をFacebookにアップしたら、『なにこれ欲しい!』『見たらもう売り切れだった!』と友達が盛り上がっていました」。
つまり、お客さんにとって...