東京・蔵前で“書くきっかけを作る”文具店として生まれた「カキモリ」。コロナ禍によってオンラインの活用を積極的に行っている。店舗を重視してきた同社のECへのシフトについて話を聞いた。
書くきっかけをつくる実店舗
──2010年に店舗を立ち上げられましたが、事業を始めたきっかけは何でしょうか。
もともとは、祖父の代から続く文房具屋の3代目として会社に入ったことがきっかけです。東京は、ハイエンドなものから雑貨的なものまで様々な文房具が集まる世界有数の都市。当時、すでにロフトや東急ハンズなどの小売店も存在しており、競争は非常に激しい状態でした。
しかも、文房具はEC化が非常に進んでいるジャンルで、40%を超えるといわれます。アスクルやAmazonといった既存のECプレイヤーにはまず勝てません。それならば、書くことへの専門性を絞った実店舗で勝負していこうと決めました。そこから「書くきっかけを作る」というコンセプトのノートやインクなどのオーダーメイドサービスが生まれました。
当時はまだカスタマイズECの初期コストが相当かかる状態でしたので、手が出せなかったという理由もありますね。
店舗


素材を見ながらオーダーノート、インクをつくることができる店舗。ECでのオーダーもできるように実装を進めている。
店舗の混雑からEC強化へ
──カキモリとしてECを立ち上げたのはいつごろですか。
実は2018年と非常に遅いスタートでした。地方のお客さまが増えたことで、ECへの要望が非常に多くなってきたのです。ただ、売上はコロナ禍前まで右肩上がりでしたから、あくまで店舗に来られない人やリピート購入のためのサブ的な位置付けという認識で立ち上げました。
しかしその一方で、店舗の混雑状況は限界に達しつつありました。今までならば次の展開として多店舗展開というのが主な選択肢だったと思います。しかし、以前に比べてオンラインで実現できる機能が格段に進歩していたことや、オンラインとオフラインを融合させるOMO(Online Merges with Offline)などを知り、2020年1月からEC強化のリニューアルプロジェクトをスタートしました。2020年11月9日から順次公開しています。
──順次公開ということは、今後も機能が追加されていくのでしょうか。
そうですね。完璧を目指してつくりこみに時間をかけ続けてリリースを伸ばすと、ユーザーのフィードバックを得ないまま時間だけがたってしまうし、その間につぶれかねないので(笑)、走りながら充実させていくつもりです。ひとまずオープンさせたのは機能も商品点数も限られたウェブサイトで、私たちが目指すイメージの1合目ぐらいです。
オーダーノートやオーダーインクのカスタマイズECは、2021年の1月頃にリリースを目指していますが、こちらもスピードを重視して準備しており、体験としてはあまり面白みのないものにはなります。一方で、「体験の楽しさがなくても、面倒くさくてもいいからオンラインでオーダーしたい」と言ってくださる方が一定数いるので、今は店に来られない人にとってもカスタマイズECがあった方がいいかなと。
ただ、そのままでは絶対に伸びないので、リコメンドやサイズなど入り方の切り口をいろいろ考えつつ、1年ぐらいかけて投資しながらカスタマイズECの新しい形をつくっていきます。カスタマイズECは多様なサービスがありますが、まだまだ黎明期。どういう切り口でやるのが一番いいのか、常に考えているところです。既存のモール型ECに出す方法もありますが、世界観で勝負していく企業は絶対に自社で構築した方がいいと思います。
ECサイト

カキモリの世界観を感じてもらえるようにサイトをデザイン。今後の顧客との接点として活用していく。
接点を店舗からオンラインに
──リニューアルにあたり、目指す方向性に変化はありましたか。
意識としては、カキモリへの入り口を店舗からオンラインへと切り替えました。商品やコンテンツはすべてウェブに掲載し、D2C(Direct to Consumer)の方向に進んでいきます。また、店舗の場合はコアターゲットに向けて、EC はもう少し幅広い層に向けた形でつくっていくつもりです。
ECはASP型で構築し、AllbirdsやFABRIC TOKYOといったD2C系企業を参考にしながらつくり込んでいきました。機能面は、少なくとも今後5年は使える拡張性を持たせています。
ただ、機能寄りでつくると、どうしてもシンプルにならざるを得ません。そこで意識したのは“アナログ感”。カキモリらしいエモーショナルな部分を残すため、メニューアイコンなど主要な部分に手描きイラストを採用し、温もりの感じられる写真を使うといった工夫を心がけました。まるで本を読んでいるような、...