8月にアパレル大手ギャップ(GAP)が商品の値下げを発表し話題になった。新型コロナウイルスの影響で失業率が高まり購買意欲も低下しているなか、自社の商品は値下げをすべきなのか、価格戦略に詳しい吉川尚宏氏が解説する。
8月下旬になってようやく新型コロナウイルス感染症の新規感染者数も減少傾向となってきた。しかし、4月から5月にかけて発出された緊急事態宣言が影響して、2020年度第一四半期の実質GDP成長率の速報値は▲7.8%、年率換算で▲27.8%と大幅に落ち込んでいる。
また消費者物価指数(全国、生鮮食品を除く総合)は前年同月比で4月は▲0.2%、5月も▲0.2%、6月は0.0%、7月も0.0%となっており、物価水準はマイナスまたはゼロという状況にある(図1)。こうした状況下で企業はどのような値付けを行うべきなのか。
価格戦略で重要なのは3つのCである(図2)。第一はCompany、すなわち自社に対する理解で、特にコスト構造の把握である。第二はCustomer、すなわち顧客の理解であり、特に購買意欲に注目する必要がある。第三はCompetitor、すなわち競合企業の動きの理解である。
自社の平均変動費用に着目
まずは「Company=企業」への理解から見ていこう。財やサービスをつくり出すには固定費と変動費がかかる。これらの合計が総費用である。ある数量の財やサービスを生み出すための1単位あたりの総費用は「平均総費用」、また1単位当たりの変動費は「平均変動費」と呼ばれる。
価格が平均総費用を上回っていれば利益は出る。問題は消費者の“購買意欲”(消費者が特定の財やサービスに払ってもいいと思っている金額)が低下したことにあわせて価格を値下げすることで、価格が平均総費用を下回る場合である。価格が平均総費用を下回っていれば、長期的には経営は成り立たない。しかし、価格が平均変動費を上回っていれば、短期的には経営は成り立つ。
ある財やサービスを1単位生産して販売する場合、キャッシュインはまさに価格である。他方、生産設備など固定的にかかっている費用は既にキャッシュアウトしており、サンクコスト(埋没費用)である。したがって追加的なキャッシュアウトは変動費だけであり、価格が平均変動費を超えていれば、当面のキャッシュフローはプラスになる。
仮に1000円の...