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逆風下の販促戦略

インサイトを理解しなければ、ニューノーマルの時代は生き抜けない

大松孝弘(デコム 代表取締役)

新型コロナ後のニューノーマル(新常態)を語る上で、インサイトの把握は欠かせない。インサイトマーケティングの専門家である筆者が提唱する「New Normal Planet」をもとに、本稿では、2つの新たな消費者の欲求について分析を行った結果をレポートする。

新型コロナウイルスが市場に及ぼしている影響はすさまじいものがあります。当然、このような状況下ですので、消費者心理にも行動にも様々な変化が起こっています。

しかし、現在行われているコロナ禍関連の市場分析のほとんどは、消費トレンドを近視眼的に整理するレベルに留まっているものばかりです。

POSデータから「餃子の皮が売れている」といった情報をピックアップしたり、Googleのトレンドから「『ギター×初心者』という検索ワードが上昇している」といった現象面だけに目を向けたり、そうして拾い上げた情報を「巣ごもり消費」「おうち◯◯」といったレベルで表層的なネーミングを行っているレベルに留まっています。

市場の理解としてこのようなことを続けていては、ニューノーマル(新常態)の環境において企業やブランドが適切なアクションを起こせない、といった事態も十分に考えられます。

コロナ以前にはもう戻らない

必要なのは消費者のインサイトを探ることです。私たちがインサイトを探索する上で重視している4つの要素、「シーン(場面や状況)」「ドライバー(インサイトを感じさせる具体的な要因)」「エモーション(感情)」「バックグラウンド(インサイトの背景にある要因)」のすべてが大きな変化を遂げているのですから、インサイトを掘り下げる必要があります。

私たちが確認していることは、新型コロナウイルス禍は、これまでに存在しなかったまったく新しい価値観を出現させたのではなく、コロナ禍の発生以前からくすぶってきた欲求の強さを加速させたり、それほど多くなかった欲求を持つ人の数や場面が増えたりするという変化をもたらしている、ということです。

しかし、大きな環境の変化を経験したのですから、コロナ禍が鎮静化した後の世界=「Afterコロナ」が訪れても、それ以前の世界にそのまま戻るということはあり得ません。「Withコロナ」の状況下で手にした価値を、消費者は手放さないであろうと予測できるからです。

ニューノーマルの世界において、企業やブランドはその消費者の欲求に応える必要があります。政治や行政の世界でもそれを理解することは欠かせません。このような欲求を読み解いていくためには、消費者の心理を深く掘り下げ、変化の本質を理解することが必要です。

コロナで変わる行動を独自分析

現状に必要とされている本質的な分析を行うべく、私たちは、多種多様な“コロナで変わる消費者行動(n=1)”をオンラインで約1000件収集しました。そして、その中から抽出した210件を分析することで、ニューノーマルの時代に消費者が求める20の欲求を明らかにしました。これを一覧化し「New Normal Planet」と名付けました(図1)。恒星を取り巻く20の惑星が、ニューノーマルにおける消費者の新・欲求を表します。

    消費者欲求は3つの軸で整理

    20の消費者欲求は、次の3つの軸により整理することができる。

    軸1 「WE(わたしたちにとって)」⇔「ME(わたしにとって)」
    コロナ禍は、様々な形で社会と自分自身との関係に大きな影響を与えた。その中で、自分だけでなく、広く社会や公にとって価値を感じられることなのか、社会や公を意識した上での自分自身のための価値なのか。その方向性の違いが「WE」と「ME」。

    軸2 「Aggressive(攻め)」⇔「Defensive(守り)」
    Aggressiveは攻め、積極性といった意味。生活の中で、挑戦的に前に向いていくイメージ。一方、Defensiveは守り、防御的という意味。足場をしっかり固めたり、一旦引いたりしたその後で、次のステップを目指そうとするもの。

    軸3 「Withコロナ」⇔「With/Afterコロナ」
    時間で見た軸。20の消費者欲求が、コロナ禍の終息までの「Withコロナ」なのか、終息後にも影響が続く「With/Afterコロナ」なのか。これを確認することも、企業が戦略を立案する際の判断材料となる。

    図1 デコムが提唱する「New Normal Planet」

    出所/デコム

同時に、20の消費者の欲求に企業が応えるための「共感のスイッチ」と「非共感ポイント」も明らかにしました。20の消費者欲求については、図2の内容を分析して解説しています。

  • 消費キーワード:ニューノーマルにおけるビジネス(マーケティング)機会
  • 共感スイッチ:企業が応えるべき消費者の欲求
  • 非共感ポイント:企業が感じさせてはいけないこと
  • 代表する消費者事象(n=1):この消費キーワードを象徴する具体的な消費者の行動
  • Beforeコロナの価値:変化を理解するための従前の価値
  • WithコロナまたはWith/Afterコロナの価値:ニューノーマルにおいて着目すべき価値
  • 図2 デコムが実施した「20の消費者欲求」分析内容

分析においては、コロナ禍によって生まれた消費者行動の具体的な「n=1」事象を収集しました。その事象について以下の2つの視点で分析を行いました...

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