中国で活況を呈し、近年は日本でも実験的な取り組みが広がる「ライブコマース」。コロナ禍でEC利用が増え、商品を売る一手段として検討している企業も多いだろう。サービス運営に携わってきた立場から、その基本と成否を分けるポイントを解説する。
ライブコマース 成功させるためのポイント
1 商品をしっかり見せる
2 使用イメージを意識させる
3 商品紹介はもったいぶらない
4 Q&Aの答えは入念に準備
5 購入方法をしっかり伝える
昨今、日本では旧来の店舗型のモノの売り方から脱却したインターネット上における販売が主流になっている。一方で、リアル店舗で感じられる人とのコミュニケーションや空間がつくり出す世界観、またそのイメージの感受をしたいと思っているユーザーも多く、そういった声に応えることができないかという問題解決策としてライブコマースが注目を浴びている。
そもそも「ライブコマース」とは何か
ライブコマースは中国で始まったと言われている。もともとは独身の日(11月11日)など、中国でECを活発にしたイベントが元となって出現した売り方だ(図1)。個人または法人が生配信で特定の商品を紹介し、その生配信を見ながら画面上からワンストップで購入体験ができるというものである。
通常のEC販売との違い(図2)は大きく2つ。ひとつが「つくられた世界観外(=リアル)で、そこにあるプロダクトを感じることができる」ということだ。
通常のEC販売の商品ページは、その商品が一番よく見えるような写真で構成されていることが多く、正確な情報を知ることが困難である。「ECで購入したプロダクトがイメージと違った」などという感想を持ったことのあるユーザーは多くいることだろう。しかし、ライブコマースは生配信を活用しているため、ドラマのような演出を加えることもなく、ありのままの姿を紹介することができる。そのため、商品に対する情報を正確に発信することとなり、ユーザーからの信頼を獲得しやすい。
もうひとつが「双方向性のあるコミュニケーションにより、即座に問題解決ができる」という点だ。多くのライブコマースサービスにおいては、コメント機能が搭載されているため、ユーザーが疑問に思ったことを即座に質問することができる。コメントは匿名性を持っているため、店舗でスタッフに聞きにくいことも質問しやすい環境となっており、そういったコメントに素直に出演者が回答することによって、プロダクトやブランドに対する信頼度はさらに増していくこととなる。
海外の普及状況を見ると、サービスの発端となったと言われている中国ではKOL(=Key Opinion Leader)と言われる出演者が生配信を実施する。模造品の流通が多かったり、国土が広く足を運んで商品を探すのが困難であったりという環境下、革新的なソリューションとなっており、隆盛している。
InstagramでのD2Cモデル普及で弾み
先に述べた海外での成功事例に比べ、日本でのライブコマースサービス自体の普及はまだまだこれからと言えるだろう。しかし、日本での購入動線を見てみると、少しずつ変わってきているように思える。それは、Instagramを活用したD2Cモデルが普及しているという点である。
Instagramで商品の世界観や活用シーンを展開し、ECサイトで購入する、という動線設計である。SNS上であれば、各投稿上に対し、自由に質問や感想などのコメントが寄せられる。その点においても、ECサイトのみで販売するよりユーザーに寄り添った展開ができているだろう。つまり、日本においても、インターネット上でブランドへの理解やコミュニケーションを通じた共感につながる体験をしたいという需要はあるのではないかと考えられる。
そういった中でライブコマースをどう活用すれば有効か。まず初めに考えられるのは、消費者のニーズを瞬間的に把握するマーケティングツールとしての活用である。
生配信上では、商品に対する多くの質問が寄せられる。そういった質問を見ていくと、ユーザーがより知りたいと思っていることを即座に知ることができ、ECやSNSの発信にも反映することが可能となる。
ライブコマース実施の中で多くの質問が寄せられるのが、アパレル商品のサイズ感である。もちろん、ライブコマースにおいては、自分の身長を伝えたりすることで回答ができるのだが、それだけではなく、ECサイトにおいて身長の違う着画モデルを用意しておくなどの解決策が必要だという気づきに結びつくだろう。
また、ライブコマースはブランドやモノを主軸としたコミュニティを深化させることにもつながる。従来のECサイトには双方向性がほとんどない。SNS上では、双方向性こそあるが、タイムラグやテキストがほとんど。店舗のような温かみを感じることは難しいだろう。
一方、ライブコマースでは出演者が即座にコメントに対するリアクションを取ることができるため「出演しているインフルエンサーやスタッフが好き」「その場に集まっている自分以外のユーザーと時間を共有したい」という事象が発生し、引いてはその感情は「ブランドが好き」ということに昇華する。ユーザーに熱量を与えることが可能なのである。
つまり、ライブコマースはECサイトやSNSを入り口として興味を持ってくれた人に対してのCVRを向上させたり、ブランド価値を深く理解させることでリピーターをつくったりするための施策として非常に有効であると言える。
では、そんなライブコマース活用に際し、演出や構成においてはどういったことに注意して行うべきなのか。
ライブ配信時の演出や構成の注意点
point 1
商品をしっかり見せる
まず何より大事なのは視聴者に商品をしっかりと見せることだ。商品の全体、およびディティールが十分に分かる位置を事前に確認し、配信でそれぞれ見せていく必要がある。
また、その際は配信時間の尺を気持ち長めに取っておくことも重要だ。好きなシーンを何度も見られる収録動画と違い、ライブコマースは内容をすぐに巻き戻して見ることができない。視聴者は主体的にシーンを選べないため、気になる部分をしっかり見ることができないとストレスを感じてしまう。加えて視聴者側はスマートフォンでの参加がメインとなる。その点を考慮した上で商品カットにはしっかりと寄り、尺も長く見せる制作をしたい。
アパレルでいえば特に...