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認知心理学から考える 売り場での効果的な商品陳列

有賀敦紀氏(広島大学)

売り場の根本的な要素である商品陳列。昨今の売り場ではオンラインとつながったり、多言語対応が求められたりと大きな変化が続いている。では、その変化の中で商品陳列は消費者にとって最適化されているのか。認知心理学の視点から広島大学大学院の有賀敦紀准教授が解説する。

消費者の認識のメカニズム

まず、私は実務家でもなければ、経営学やマーケティングの研究者でもなく、基礎研究に没頭している認知心理学者である。つまり、現場の事情や応用研究の動向についてはそれほど明るくなく(勉強はしているつもり……)、いわゆる象牙の塔の住人である。そんな私から現場の方々に向かって偉そうに提言できることなど何もないのかもしれないが、基礎研究の立場からも少しは社会に貢献できるはずと信じて(基礎研究者の意地のようなもの?)、今回は腹を括ってこの文章を書いてみることにした。

そんなわけで、前提となる認知心理学の知識を読者の方々と共有するために、ちょっとだけマニアックな話から始めさせていただきたい。

我々人間の脳は外界(自身をとりまく世界)を認識するための情報処理装置であるが、一度に認識できる分量には限界があるとされている。たとえば、テレビや読書に没頭しているとき、我々は誰かに話しかけられてもまったく気づかないことがある。このように我々の脳は、外界をそのまま映し出す鏡のようなものではなく、その時々に必要な情報を優先的に選択して(同時に不必要な情報を排除して)認識する、いわばフィルターのようなものである。

もちろん消費者もこのフィルター装置を使って商品を認識している。つまり、購入を検討している商品に関する、すべての情報を認識しているわけではないということだ。

たとえば、冷蔵庫を購入したいと考えている消費者がいるとする。その消費者は、この世に存在するすべての冷蔵庫の情報を認識し、比較検討して、購入を決断することなどしないであろう。多くの場合、いくつかの基準(求める性能や値段、好みのブランドなど)で選択肢を絞った上で、それらを比較検討して購買意思決定を行う。つまり、消費者は商品に関するすべての情報を認識することを最初から諦めている。むしろ選択肢を絞るなどして効率的に購入候補となる商品を認識し、購買意思決定を行っているのである。

実際、過去の有名な研究では、ある商品の選択肢数が過剰である場合(たとえば、非常に多くの種類のジャムが店頭に並んでいるなど)、多くの消費者は購入しないことが報告されている。つまり、消費者の認識の限界を超えた情報量が提示されると、消費者は満足な比較検討ができず(すなわち、うまく購入の理由づけができず)、結果として購買行動は抑制されるのである。

認識の効率性を高める、商品の陳列方向

情報量が消費者の認識の限界を超えると消費者の購買行動が抑制されるのなら、消費者が効率よく情報を処理できるようにしてやれば、購買行動の制限を防げるだろうか。この点に注目した研究として、「商品の陳列方向」が消費者の購買意思決定に与える影響を調べた欧米の研究がある。

研究では、垂直方向よりも水平方向に陳列された商品の方が消費者の購買を促進すること(水平陳列の優位性)が、実験室およびフィールド(スーパーマーケットなど)において一貫して報告されている。人間の視野は垂直よりも水平方向に広いため、我々は水平陳列の商品のほうが、効率よく認識できるからである、というのがその研究の主張の根拠である。

なるほど、「水平陳列の優位性は、人間の目は横に並んでいるという視覚の特徴に則っている」、と聞くと、説得力があり、汎用性も高いように思える。

しかし、これを実際の現場に応用する際には注意が必要である。なぜなら、私の最新の研究によると、水平陳列の優位性は必ずしも生じるわけではない、ということが明らかになったからである。

研究の紹介に入る前に、ここでまたちょっとだけマニアックな話をさせていただきたい...

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