実店舗の売り場づくりにおいて、視覚は最も重要な要素である。そして、その視覚に訴えるVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)は、実店舗の魅力や買い物客の満足度を高めるには必須の要素だ。ここでは、VMDの基本について戸板女子短期大学の井上近子准教授が解説する。

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VMDのねらいと取り巻く環境
VMDのねらいは、店舗コンセプトや売り場の統一コンセプトに基づき、品揃えや店舗デザイン、販売促進、陳列方法などの諸活動を機能的に連動させることにあり、店舗や売り場、商品の特徴を視覚的に演出し、誰に、どのような価値の商品を、どのように提供していくかについて明らかにする店舗戦略である。
言うなれば、店舗におけるVMDは、消費者の立場から、視覚に訴える品揃えや陳列をすることで、「見やすく」「選びやすく」「買いやすい」魅力的な売り場環境を目指す仕組みと方法で、顧客満足度を高めることにある。
そもそもVMDとはビジュアルマーチャンダイジングの頭文字だ。言葉自体は1944年にアメリカでディスプレイ業を営んでいたアルバード・ブリス(Albert Bliss)氏が最初に使用したといわれている。VMDの考え方や手法は1970年代後半、アメリカの百貨店や専門店などを視察した、日本のアパレル業界の関係者によってわが国へ持ち込まれた。
日本では、売り場のビジュアル化を推進する百貨店の自主編集売り場「平場」の充実や、80年代に社会的ブームとなったDCブランド(デザイナーズ・キャラクターブランド)の「ハコ型売り場」にVMDを導入し、ファッション業界では社会的な風潮となっていった。
しかし、90年代初頭のバブル経済崩壊や郊外のショッピングセンター出店によるオーバーストア(店舗の過剰出店)の影響で競争が激化。多くの小売業が売上高の不振、規模の縮小、撤退を余儀なく迫られる厳しい時代に入り、マーケティングやMD(マーチャンダイジング)に対する考え方が見直された。新たな店舗として生まれ変わるべく、「経営方針の現実化」「商品の持ち味の表現」「新しいコンセプトの提案」などの考え方や主張をMD施策に取り入れたVMDが構築されるようになった。
たとえば、「同業他店舗との差別化を図る」「消費者の潜在購買意識を刺激する」「需要を創造する」「多様化した商品を多様化したニーズに対応する」「限られた売り場面積の中で目立つよう陳列する」などの課題を解決することが求められるようになったのだ。
さらに今般では、グローバルな商品施策、ICTの進展と連動した管理・運営技術の高度化に伴い、現代の社会環境に対応した理論や技術、店舗什器の研究が継続的にされている。
VMDの役割と店舗のターゲット
VMDの基本的な目標は、企業のMD施策を消費者に訴求することである。そのため、商品の特徴や価値を視覚で表現し、現在や将来にわたるライフスタイルに影響を及ぼし、消費者の購入につながるものでなければならない。小売業にとっては、店舗全体で統一されたマーケティングコンセプトに基づく情報を発信し、店のポジショニングを明確にすることによって、消費者の理解や支持を得、売上高と固定客づくりに結びつけることが必要だ。
そのためのVMDは、MD施策における顧客のニーズを満足させるべく、「適正な商品・サービスを」「適正な場所で」「適正な時期に」「適正な数量を」「適正な価格で」提供することが基本原則である。その計画に基づき、商品を効果的に演出、表現して、情報を発信することで、消費者に快適な買い物を提供する魅力ある店舗や売り場づくりを目指すことが大切である。
またVMDは、商品施策や商品計画により、常に新規顧客を引きつける工夫として新商品の紹介、それに合わせた生活シーンなどを提供することが役割として求められる。
店舗や売り場で取り扱う商品については、販売対象として特定の市場と顧客を有しており、すべての消費者がその商品を購入しようとしているわけではない。ここでは店舗のターゲットである、リードターゲットと、リアルターゲットの二つを挙げて、それぞれの特性の違いを述べてみよう...