ECサイトの商品写真は、重要な情報源だ。クオリティが低ければ、購入を妨げる原因に。対して、シズルのある写真であれば、販促にもつながる。ここでは、その商品写真の基本について、商品写真専門のプロカメラマン鈴木遥介氏が解説する。
ECサイトに必須 利用者が〈見たい〉商品写真
通信販売で、カタログのような印刷物が主流だったころ、商品写真は正面から撮影したものばかりでした。複数のカラーバリエーションがあったとしても、背面などの詳細がわかる商品カットは1色のみ、ということが珍しくなかったように思います。表地の色に合わせて裏地やステッチの色が異なることも多いですが、そうした細かな部分を確認できなかったのです。
一方、eコマースサイトでは、デザインや機能上の制限はあるものの、たくさんの写真を載せることができます。これを利用しない手はありません。しかし、複数の写真を掲載できるからといって、なんでもいいわけではないのです。
ポイントは、〈お客さまが見たい部分〉の写真であること。お客さまの〈見たい〉を先回りして用意するのです。正面のほかに、左右から、背面からというのは言わずもがなですが、奥行きのある商品であれば、斜め方向からも撮影したいところ。さらに、洋服であれば襟の細部やボタンのデザイン、そして、生地の肌触りや紋様がわかるようなアップなどもおさえます。
撮り方によってはクレームにも NGな商品写真
写真はデジカメやスマートフォンが普及したことで、グッと身近な存在になり、自分たちで撮影する事業者も増えました。
雑誌や書籍はもちろん、昨今はインターネットでも撮影のコツを調べることができます。しかし、それでも「どうしてもプロのようにならない」という方は多いのではないでしょうか。
私が、「いろいろな事情があって、自分たちで撮影してるんだろうなぁ」と感じるショップには特徴があります。特に気になるのは、「色味の違和感」「写真の薄暗さ」「形の歪み」の3点です。
色味の違和感というのはたとえば、全体が黄色がかっていたり、緑色だったりするということです。大抵、「ホワイトバランス」をきちんと合わせられていないことや、さまざまな光の下で撮影したために、光の色が混ざってしまっていることが原因だと考えられます。
また、薄暗い写真ですが、商品をきちんと見せてあげられないだけではなく、不潔な印象を与えてしまう恐れがあります。私が商品写真を撮影する際には、少し明るめで爽やかな印象に仕上げるようにしています。色味や明るさは、カメラの設定を見直し、正しいライティング(照明)で撮影することで改善できます。
そして、形の歪みです。個人的には最も気になります。おそらく、被写体に近づいて撮影している人が多いのではないでしょうか。被写体に接近し、かつ、広範囲を撮ろうとすると広角レンズを使うことになります。すると、商品の形を正しく撮影できない、つまりは歪んだ写真になってしまうのです。
[写真2a]は、デッサン人形を、広角レンズで少し上から見下ろすように撮影したものです。実際のデッサン人形[写真2b]と比べると、上半身が太く、大きく見えます。[写真2a]のような造形のデッサン人形が欲しくて注文したのに、[写真2b]が届いたら、返品、返金につながると思います。写真の表現としては[写真2a]のほうが好み、という方もいるかもしれませんが、商品写真は、正しい情報を与えることが最優先です。
〈良い写真〉は人それぞれ 撮りたいイメージは明確に
製造・販売に携わる方であれば、取り扱う商品への愛情は深いものではないでしょうか。最も素敵な状態の商品を紹介したい、そう考えるのは当然だと思います。しかし、思い描くイメージは個々人で異なるのです。
私にはこんな思い出があります...