「噂通り」──広島県広島市安佐北区にある、実際の通りの名だ。ここにある店や施設は「噂通りの◯◯」と名乗ることになる。一体、どんな噂で、どんな店なのか。こんな期待をそそるネーミングの企画経緯を取材した。
広島県広島市安佐北区「噂通り」のネーミング
IDEA
通りの名称を「噂通り」と名付ける
FEASIBILITY
任意団体を発足 街の地域おこしとして認めてもらう
REALITY
人気の店ができた〈噂〉が街に人を呼び始めていた
〈噂〉を聞きつけて戻りつつある街の賑わい
〈可部駅東口 飲める店続々 にぎわう「はしご酒」スポット〉──中国新聞の2020年3月11日付朝刊に、このような見出しが踊った。記事では、昭和の風情が残る一帯はかつて、商店が立ち並び、賑わいを見せていたものの、平成に入ってからはいわゆるシャッター通りになっていた、と伝える。しかし、2011年、おでん専門店「おでんのどうらく」のオープンをきっかけに、徐々に夜の人通りが戻ってきたという。
しかし、これだけで、地名として「噂通り」という名前がつくわけではない。考案したのは、コピーライターの長谷川哲士氏だ。可部にかかわることになったきっかけは、現地で30年以上続く「ホテルリッチ」の支配人、大戸由加氏から、「ホテルのキャッチフレーズを考えてほしい」という依頼。
第一印象として長谷川氏が抱いたのは、「コピーだけでホテルに人を呼ぶのは難しいな」というものだった。
「そう思いながらも、一度『ホテルリッチ』に泊めさせていただきました。その際、大戸さんが懇意にしている、可部駅東口周辺の飲食店を3軒、案内してもらったのです。ホテルではなく、こうした周辺のお店と一緒に広告すればよいのではないか、と思い至りました」(長谷川氏)
「ホテル単体ではなく通り全体で」というのは、大戸氏の考え方にも沿うものだった。
「それまで、お客さまには『ホテルの周りに何もない』と言われていました。しかし『おでんのどうらく』が開店して間もなく、平日も予約が取れない店になると、同店の〈噂〉を耳にして集まった料理人の皆さんが出店し、賑わうようになっていきました。ホテルの宿泊客を増やすことだけを狙うのではなく、街に人を呼び、ここにしかない魅力を発信することのほうが重要ではないかと考えていたのです」(大戸氏)
時系列としては、2019年6月7日に、「ホテルリッチ」のキャッチフレーズを依頼。長谷川氏がホテルに泊まったのが7月12日。JR可部駅の東口側にある通りを「噂通り」という名前にする。そうすれば、(ダブルミーニングとして)ホテルリッチは、「噂通りのホテル」になれる──この提案は、宿泊から5日めの7月16日だった …