ここでは、これからの流通・小売業界が抱えるであろうさまざまな課題がある中から「3つの課題」について取り上げ、その解決策について、消費者経済総研 チーフ・コンサルタント 松田優幸氏が解説する。
変革の時代に「空間」が重要な理由
昨今、銀行業界は、大きな変革のときを迎えている。自動車業界でも同様だ。トヨタ自動車は、「いまが100年に一度の大変革期だ」とうたう。では、小売の実店舗はどうか。消費者経済総研では、小売業界もこうした例にもれず、未曾有の変化が起きているととらえている。
100年に一度の再開発が進んでいる渋谷では、昨年11月に「渋谷パルコ」が、新時代に向けた実店舗の魅力を存分に発揮した「未来型の店舗空間」として復活を遂げた。「渋谷パルコ」は、Eコマース(EC)の長所を取り込んだ「PARCO CUBE」を展開し、オフラインとオンラインを組み合わせた売り場を実現した。
「渋谷パルコ」で特筆すべきは、「エキサイティングな環境」である。ECでは、決して満たされることのないワクワクするリアルな空間が、そこにある。さまざまなデザイナーやクリエイターが共創し、デザイン、アートがあふれる空間となっている。
商業施設ではほかに、「南町田グランベリーパーク」が注目に値する。ここは、単なる四角い大箱の施設ではない。直線を組み合せて、アール(曲線)を演出しており、夕方から夜になると、大階段・エスカレーターが光り輝いて、施設全体が光の空間となる。施設自体にエンターテインメント性があるのだ。
「南町田グランベリーパーク」にはスタイリッシュさだけではなく、「安らぎ」もある。専用部、共用部ともに木と緑が多用されているのが特徴的で、トイレも例外ではない。町田市の「鶴間公園」と商業施設が連動、融和しているため、買い物の前後に、公園で「安らぐ」こともできるのだ。
筆者は、「渋谷パルコ」と「南町田グランベリーパーク」の両物件とも、グランドオープン前に訪れた。視察目的にもかかわらず、純粋に楽しく感じ、かつエキサイティングしてしまい、それぞれ5~6時間も滞在してしまった。
デジタルの拡大が続くこの時代では、リアル空間の商業施設と実店舗は「スタイリッシュな環境」や「エキサイティングな環境」、「リラックスできる空間」などで、人々を引き寄せる必要がある。そうすれば「在宅でEC」ではなく「外出して買い物」への誘導が、可能になるのだ。商業施設・実店舗業界も、変革期であるなかで、空間環境が、より一層重要なのだ。未来を見据えた「リアル空間のモデル」や「小売業の課題と解決策」を、この2物件は提示している。
さて、ここまでは商業施設について、である。しかし、個々の実店舗の...