時代に応じて、柔軟に変化してきたダイレクトメール。全日本DM大賞の審査員である奥谷孝司氏と畠中陽子氏が、ダイレクトメールの新たな可能性と、再び見つめるべき原点について語る。
interview 01
顧客とのつながり強める「対話」を
ダイレクトメールに従来期待されてきたのは、レスポンス獲得でした。これからもそれは変わらないでしょう。しかし、それは、ダイレクトメールの価値がそれのみだ、ということではありません。
今後期待されるのは、顧客体験を把握する指標──認知・興味関心、検討、購買の意向を計測することを踏まえて、ダイレクトメールを制作することです。
たとえば、すでに正月のおせち料理商戦が始まっています。当社も、多くのコミュニケーションタッチポイントを活用して、注文を促しています。
皆さんの会社でも、このように複数のコミュニケーションチャネルを活用して、マーケティング活動を行っていると思います。
そこで、どのツール、タッチポイントが最もレスポンスを獲得できたかということはもちろん、1月以降、各ツール、タッチポイントから流入されたお客さまを追跡してみるのはどうでしょうか。ツール別に、周囲への推奨意向が高まったか、あるいは来年の購入意向が高まったかどうか、を調査するのです。
つまり、販促ツールとしてとらえるのではなく、優れたコミュニケーションチャネル、お客さまとのつながりを作り出す優れた場としてとらえてみるということ。顧客体験が重要なことは、かねてから指摘されているとおりです。
特にダイレクトメールは送付先がわかっているので、追跡もしやすい。その中から、たとえば500人を抽出し、ブランド名に対して何を想起するか、表現内容は覚えているか、商品への期待がどのように変わったかなどについて尋ねてみれば、送っていない人、あるいはほかのツールの利用者との違いが見えてきます。
実店舗とECサイト、モバイルアプリとモバイルWebサイトの顧客体験の違いは、それぞれが提供するサービスや役割などに現れてくるものです。たとえば、アプリは独自のクローズドな環境があり、ダウンロードが必要。一方のモバイルWebサイトはアクセスが容易ですが、そのたびにログインが必要で、関係が希薄になります。
同様に、ダイレクトメールというタッチポイントは、どういうものなのか。改めて真剣に考えてみてもよいはずです。リーフレットやチラシとの違いは何か。そこでどのような顧客体験が起きていて、何がそれを可能にしているのか。
顧客の意向変化はダイレクトメールだけで起きるものではありませんし、偶然にも左右されます。しかし、顧客データが、ますます経営資産としての存在感を強めているいま、ある顧客に対してダイレクトメールが、どのような変化を起こしているのか、も重要なデータです。
そのデータを生かして、顧客へのフィードバックを変えていくことも、顧客とのつながりを強める「対話」なのです。
interview 02
どういうお客さんを大事にしたいか
サービス業や一部の小売り店舗、通信販売でもそうですが、直近の来店日から一定期間が空くと、ディスカウント付きのダイレクトメールが送られてくることがあります。けれど、私などは、「コンスタントに利用しているお客さんのほうを大事にしてほしいな」と思います。
似たような話で、携帯電話では乗り換え客が最も優遇されます。しかし、同じメーカーの機種をずっと使い続けている人──実は私もですが、新機種を先行で手に入るようにさせてくれたら、値引きしなくても買うんだけど……と思っています。
利用しなくなった人、ヨソから移ってきた人を優遇する、という施策には、そのまま、企業がどういうお客さんを大事にしたいと思っているのかが現れます。
新規獲得はもちろん重要ですが、事業を続けるには既存のお客さんが不可欠です。新たなお客さん向けであれ、なんでれ、広告の内容は誰にどこで見られてもいいようにしておくべきだと思います。
ダイレクトマーケティングでは、必然的にお客さまを"格付け"することになります。しかしそれは「理想のお客さま像」にどれだけ近いか、という格付けです。「理想」というのは購入金額だけではありません。より多くの人を紹介してくれる方かもしれないですし、それこそ企業ごとにあるはずです。
要するに「自分たちは、どういうお客さんを大事にしたいか」です。理想のお客さまの姿をくっきりと解像度高く描けているか。発信する側に問われるのは、まずここだと思います。
いまの時代、何を聞くかより誰から聞くかが重視されます。さらに、誰と一緒に時間を過ごすか、ということも大切になってきています。その商品はどんな人たちが買っているのか、ということです。
「誰々さんがいるなら私も!」とポジティブに働くこともあるでしょうし、「ああいう人たちが集まっているなら、ちょっと…」ということもあるでしょう。
つまり、商品や店舗を選ぶのは、自分が所属するコミュニティを選ぶようなものなのかもしれません。
「理想的なお客さま像」を明瞭にするのは、どういうコミュニティを作りたいか、につながります。どういう顧客を抱えているかはやっぱり企業の競争力なのだと思います。
そして、忘れられがちな気もしますが、社員のみなさんも、そのコミュニティの一員です。社員がその商品の本当のファンだと、信頼できますよね。
「理想的なお客さま像」に近づいていってもらえるよう、情報ではなく情緒のやりとり、購入よりも交流、という観点で、コミュニケーションを図ること。本心からそう考えていれば、お客さまには必ず伝わるものです。
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