昨今、企業とアーティストによる「コラボレーション」が増えてきた。アートの担い手の視点に無知であってはならないだろう。双方が心地よくあるためには、どのようなコラボの形を目指せばよいだろうか。
アーティストの支援をふまえた双方の交流を生む試みを
企業がプロモーションの文脈で「アート」を起用する機会が増えてきた。
「コラボレーション」と冠し──つまりは"共同制作"と受け止められても無理のない企画であっても、実態はただのプロモーション利用である、という見方もできる。企業側とアート、どちらも心地よくあれる関係を築くことは、不可能なのだろうか。
東京都現代美術館の藪前知子氏は、「山口小夜子 未来を着る人」(2015年)、「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」(2015年)などを企画してきた学芸員だ。後者は参加した芸術家の1点の作品について撤去要請があったものの、それを撤回したということもあった。
展覧会名に「こどもも」とあるとおり、子どものためのものでもあった企画で、そこには時間性が見いだせる。つまり、大人になってから、子どものときに見た何かが呼び起こされることは珍しくないものだ。
来館した子どもの将来にまで通ずるアートはあるのか──それくらい遠くを見通しながら、「アートが観覧者に何を残せるのか」を前景化しようとしていたのではないか、という想像は可能だろう。大人であっても、何年後かにやっと"作品の意味"がわかることがある。アートの射程はそれだけ長い。
一方のプロモーションは、「いま」「ここで」、見た人を刺激することが求められる。百年後に評価される広告表現もあるにせよ、それは本来の動機に叶うものではない。広告は、広く多くの人の注視を集め、感情を刺激する上で芸術的な手法を用いる<目的芸術>であり、ビジネスだけでなく、政治にも用いられてきた。しかし両者の違いは、目的だけでなく、時間にもあるのだ。
似ているようで本質的に異なる広告と芸術だが、藪前氏は、企業とアートの「心地よい関係」として、「企業がアーティストを直接サポートし、かつ相互に好影響を生み出せるもの」と話す。
その実例として同氏が挙げるのは、マネックスグループの「ART IN THE OFFICE(アートインザオフィス)」だ。2007年から続けている公募プログラムで、現代美術のアーティストで、学生も可。新作の平面作品案を募り、審査を経て1人(あるいは1組)を選ぶ。
受賞者は、マネックスグループのオフィスに2週間ほど滞在して制作するほか、社員を対象としたトークイベントやワークショップに出演する。活動支援として、賞金50万円と制作費10万円、および「AIT(エイト)(※1)」が開催する現代アートの教育プログラム「MAD(マッド)(※2)」の受講機会が贈られる。作品はグループ本社のプレスルームに約1年間展示する …