日常のあらゆるコミュニケーションで生じうる誤解。そもそも、誤解はなぜ生じるのだろうか。企業発信のあらゆるプロモーションにおいても、消費者の誤解を避けたいのは同様。誤解が生じることで、炎上を誘発する恐れがあるからだ。誤解している、とはどのような状態なのか。また誤解を防ぐために、我々には何ができるのか。愛知学院大学の岡本真一郎教授に話を聞いた。
新人社員の山田「この企画、ヤバいですね」
ベテランの中村「え、わたしが考えたのだけど、おかしなところがあった?」
山田君としては、「この企画、すばらしいなあ」と感じて口にした言葉なのだが─。
日常生活に誤解はつきものである。取引先とのやり取りや顧客対応などのビジネス場面でも誤解が生じる。時には重大なトラブルの元にもなる。
なぜ誤解が生まれるか、そしてそれをどう防ぐかを、言葉の社会心理学の観点から考えてみよう。
コミュニケーションにおける「共通の基盤」
まず、こんな場面を想定されたい。マコトさんが恋人のミホさんに「君はブタだね」と話しかけた。ええっ?と思われるかもしれないが、ミホさんはニコニコしながら「そうだよ」と答えた。実は2人は串カツ屋におり、マコトさんは注文した串カツの種類を確認したのである。
発言やメールなどから伝わるのは、文字通りの内容だけではない。そこから推測可能なことも伝わる。この例のように推測が大きな役割を持つ場合も多い。手がかりになるのは、場面や常識からお互い共通にわかっていると予想できること(共通の基盤)だ。ここでは「串カツ屋で会話していること」が提供する諸情報が共通の基盤となっている。
「わかっているだろう」が招く透明性錯覚とは
日常的なコミュニケーションが効率よく、便利なのは推測がそれを補完しているからだ。しかし推測は失敗することもある。相手との共通の基盤をうまく見積もれないときだ。私たちは効率性の代償として誤解を生む大きな原因を抱えていると言っていい。
まず、常識が共通の基盤を形成すると言っても、「常識」と考えるものには個人差がある。冒頭の「ヤバい」のように、言葉の意味の世代差は要注意である。
そして推測の失敗を助長するものとして、「透明性錯覚」と呼ばれる心理過程が考えられる。これは人が、「自分の知っていることや考えていることは、相手にもわかっているだろう」と実際以上に思い込んでしまう現象を指す。ギロビッチという心理学者が提唱した。口頭であれメールであれ、伝え手から受け手へと何か言葉で伝える場合に透明性錯覚が影響する。つまり互いに「自分がわかっていれば相手もわかっているだろう」と、共通の基盤を過大視する傾向があるのである。
その結果、伝える側のメッセージは相手の基盤を十分に組み込まない、わかりにくいものになる可能性があるが、それでも、意図したことは相手にわかってもらえたと考える。また、メッセージを受ける側にも解釈の枠組み、つまり期待とか懸念とかがあり、それは発信者との共通の基盤からはズレていることが多い。それが意図の取り違えにつながる。
こうして、伝え手と受け手の間で伝えたつもりとわかったつもりの食い違いから誤解が生じても、それを疑うこともなく確認しないままになる。以下にさらに具体例を示そう …