新聞などで目にすることが増えた「5G」。9月にはラグビーW杯会場でのプレサービスも予定されている。実際にはどんな活用が考えられるのか。店舗のICT活用研究所の郡司昇代表が解説する。

拡張現実(AR)技術を用いたスマートグラス「Google Glass」は、企業によるビジネスユース向けに再設計。5Gが普及すれば、ARを前提に仕事にあたることになる日が来るかもしれない(編集部)
5Gのふたつの進化 過去からの延長と非連続
5Gには、大きく分けて4つの特性があります。すなわち、「高速大容量通信」「超高信頼・低遅延通信」「端末の同時接続数が大幅に増加」「基地局1カ所のカバーエリアが狭い」というものです。
ひとつめの高速化は、3Gから4Gへの移行時に起きた変化と同様のもので、いわば過去の延長線上にある進化です。毎秒10~20ギガビットという超高速通信で、映画ですらすぐにダウンロードできるといい、店舗の情報配信にも動画が使いやすくなると思われそうです。
ただ、データ通信量の問題があるので、現実的には一般ユーザーはいままでどおりWi-Fiとの併用が続くのではないでしょうか。現在、世界の通信データの過半数はWi-Fi経由です。5Gというとすぐ「高速化」に注目しがちですが、この点ではプロモーションを含めた店舗における影響は小さいでしょう。
ふたつめの超高信頼・低遅延は、遠隔地をつなぐ面で有効な技術で、手術を含めた医療分野、リモート運転など、多彩な分野でのイノベーションが期待できます。ただ低遅延が、小売業の店頭ビジネスにもたらすものは少ないでしょう。遠隔通訳などもWi-Fiの速度で十分です。
実は世間やニュースで取り上げられるこれらふたつの特性よりも、後半のふたつのほうが今後の店舗ビジネスを変えるものだと考えます。
5G×IoT×AI スライシングが作る未来
3つめに挙げた「同時接続数の大幅増加」は、前述のふたつより注目されていません。しかしこれに「AI(人工知能)」というキーワードを組み合わせると可能性は爆発的に増大します。
同時接続数が大幅に増えるということは、モノがインターネットに接続するIoT(Internet of Things)時代を強力に進めることになります。
IoTというと、わかりやすい実例はスマートスピーカーですが、ほかに何が考えられるでしょうか?たとえば街頭のゴミ箱。IoTセンサーを搭載し、各ゴミ箱の蓄積状況をセンシングすれば、回収の頻度や順序を最適化できるかもしれません。ビルなどの屋内でも同様です。
また、トイレなども考えられます。空き状況はもちろん、時間別の利用頻度を見て、清掃時間や頻度を最適化したり、必要なものの補充アラートを出したりといったことです。つまり、必ずしもリッチなデータでなくても、こうした環境情報を収集することでイノベーションが起こる可能性があります。
しかしながら、通信コストの問題があります。現状の小容量データ通信の最も低コストなものでも、月数百円の基本料金とデータ通信料がかかります。とてもゴミ箱だとか、トイレのドア開閉、あるいはエアコンのフィルター交換といったことを検知するのにかけられるようなコストではありません。
そこで出てくるのが「ネットワークスライシング」です。文字どおり1つのネットワークを"スライス"して、分割する技術です。
現状では、共通のネットワークにすべてのサービスを収容しているため、1つのサービスで混雑が起きると、それがほかのサービスにも影響を与え、全体の利便性が損なわれてしまうのが課題となっていました。人が多く集まるイベントで電話などがつながりにくくなるのが一例です。
多種多様なデバイスがインターネットに接続する5G時代では、各端末に同じリソースを割くのは現実的ではありません …