「企画のプレゼン、生活の中で目にする広告、商談のセールストークもまた物語的に構成されている」──「物語」とは何か、どのような「物語」に人はひかれるのか。お茶ノ水女子大学基幹研究院の橋本陽介氏が、著書『使える!「国語」の考え方』(ちくま新書)より一部抜粋して紹介する。
「物語」の設計図 物語論(ナラトロジー)
物語と聞くと、どのようなものを思い浮かべるだろうか。典型的には、昔話や小説、映画、漫画、あるいはテレビゲームなどであろう。
物語論(ナラトロジー)とは、もともと文学理論の一種で、簡単に言えばこうした「物語」がどのように作られているのかを分析してきた。いわば、その設計図を明らかにしてきたのである。したがって物語論を学ぶと、物語がどのようにできているのかを理解することができる。
小説やドラマ、映画、漫画などに興味があるとしても、作家でない以上は物語の設計図を知っていても仕方がないと思うかもしれない。だが、「物語」という語をより広くとらえた場合、実のところ私たちは現実を常に物語的に把握している。言葉を変えて言えば、物語とは私たちの現実認識のあり方そのものなのである。
たとえば、ある企画を立てるとする。その企画を通すために、企画書を提示したりプレゼンをしたりするだろう。このプレゼンも一つの物語である。日々の生活で目にする広告も物語だし、商談の時のセールストークもまた物語的に構成されている。スマートフォンで読む種々の記事もほとんどが物語である。物語論を知れば、こうした情報をどのように構成していったらよいかがわかる。また、私たちは常にこうした情報を受け取る立場でもあるが、その作られ方がわかると、読み取り方も変わってくるだろう。
「王が死んだ」は物語である
物語論でいうところの「物語」とは、「時間的展開のあるできごとを語ったもの」である。したがって、「王が死んだ」と語ることはもう一種の物語である。なぜなら、「王が死んでいない状態」から「王が死んだ」状態へと時間が展開したことを語っているからである。
もちろん、通常はこんなに単純なものではなく、ストーリーになっている。ストーリーでは、複数のできごとがただ並んでいるだけではない。Aが起こったためにBが起こり、Bが起こったためにCが起こるといった具合に、因果関係の連鎖になっている。私たちはふだんから、できごとを因果関係の連鎖として把握しているのである。このため、物語ではストーリーをどのように作るのか(つまり因果関係をどう連鎖させていくか)が重要となる。
人をひきつけるストーリーの作り方
小説や映画などの典型的な物語では、初期状態が導入されると、そこにある種の危機や何らかの変化がもたらされ、動揺し、その変化に対して解決が目指されることになる …