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販促の仕事に携わる人の教養講座

コモディティ化の時代に再考すべき 購買を後押しするWOM創出

斉藤嘉一教授(明治学院大学)

何かを買うときは、つい「口コミ」を気にしてしまうもの。なぜなら企業が発する情報は正直「どれもよさそう」だから。その違いを知るべく、欲しいものはまず「ググり」、誰かの本音と思しき口コミを探すのだ。では、その口コミはなぜ発信された?明治学院大学の斉藤嘉一教授が、人が口コミを発する意図、そして口コミを信じさせる「いいね」について解説する。

消費者の3つの意思決定

商品やサービスの均質化が加速している。寒い冬にダウンを買う際、ほとんどの日本製の商品は「寒さをしのぐ」という機能面のハードルはクリアしているだろう。どの商品も品質面では変わり映えしないいま、商品選択の際に重視されるようになったのが「口コミ」だ。「口コミ」を参考にする主な理由は、売り手発信ではなく、消費者側に近い、客観的で信ぴょう性のある情報を手に入れるため。

また「口コミ」によって友だちや有名人が使っていることを知り、それが購入の決め手になることもある。もちろん企業側もそれには気づいており、「ソーシャルメディアで指定のハッシュタグを添えて写真を投稿すれば、〇〇をプレゼント」といった、口コミを意図的に流布させようとするプロモーションがここ数年で一気に増えた。

「口コミ」という言葉の由来は「口(くち)コミュニケーション」。学術的には「Word of Mouth」の頭文字を使い「WOM」と呼ばれている。今回はこの表現も使いながら論を進めたい。

実際のところ、WOMは、どのように消費者の意思決定にかかわっているのだろうか。背景として押さえたいのは、インターネット普及の前後で、注目すべき消費者の意思決定が1つから3つに増えたということだ。1つめが、従来より深く考察がされてきた〈購入の意思決定〉、2つめに〈WOM発信の意思決定〉、3つめに〈WOMに「いいね」する意思決定〉だ【図1】

[図1] 3つの意思決定
インターネット普及前にももちろんWOMは存在したが、普及によって発信の頻度が増え、可視化された。

1つめの〈購入の意思決定〉からおさらいしよう【図2】

[図2] WOM発信とその影響の連鎖
発信されたWOMは、他人もしくは自身の情報探索時に再度利用される。

インターネットが普及する前、消費者が購入に至るまでの意思決定は以下のようなものだった。()内には、その例を示す。①問題認識(「お腹が空いた」)→②情報探索(知っているレストランを思い出す/コンビニやス―パーに足を運ぶ/グルメ本で調べる、など)→③代替案評価(選択肢の特徴あるいは属性を一つひとつ検討して、選択肢の全体的評価を決める)→④購買(全体的評価の最も高い選択肢を選ぶ)⑤使用と再評価(実際にどうだったか。これが②情報探索時に再利用される)。インターネットが普及するまでは、これでほぼ完結していたと言える。

しかし15~20年前よりインターネットが広く使われ始め、先述のモデルに、商品購入モデルとして著名な「AISAS」の「S(Share:共有)」にあたる、⑥WOM発信が加わった。使用した商品・サービスの評価を他者に伝える、という行為だ。

厳密にはそのWOM発信も2段階に分けられる。前者はいわゆる「口コミサイト」が浸透した時点、後者はソーシャルメディアが浸透した時点だ【図1】。現在ではその差はあいまいになりつつあるものの、前者は不特定多数の新規購入者を対象に発信されている点、後者は限られたネットワーク内の、既知もしくは購入経験者を対象に発信されている点で異なる。たとえば化粧品の口コミサイトに投稿されるWOMは、未使用の商品の使用感を確かめるために集まった、不特定多数の新規購入検討者に向けられたものだ。

一方、ソーシャルメディアでの情報発信は、基本的には限られた自分のフォロワーを対象としたもの。「スターバックスコーヒー(スタバ)」の新作ドリンクの写真付きで投稿される「スタバなう」は、限られたフォロワーが「スタバ」を知っている、もしくは一度は利用経験があると仮定して発信されていると推測できる。

ソーシャルメディアで特徴的なのは、WOM発信の頻度が各段に増加したことだ。友人に会った際、わざわざ「昨日スタバにいった」という報告はしなくとも、「スタバなう」と投稿する人はいる。この動機については後から迫るが、ソーシャルメディアの浸透により、意識せずに行われるWOM発信が増えたのだ。

もちろん、WOM発信はもっと昔から、顔を突き合わせるような場で行われていたはずだ。しかし、マーケティングで発信者に目を向けるようになったのは2010年ごろから。その主な理由はインターネットによってWOMを高い頻度でさまざまな人が受信するようになったことと、WOMが可視化されたことにある。

WOMが受信者の購買を左右していることは、ネット以前からわかっていたが、近年までマーケティングで扱われていなかったのは、WOMの発信と受信がそう多くはなく、またこれを捉えたデータが限られていたためだ。

また、WOMは消費者の自発的な行為であり、広告やセールスプロモーションなどと違って企業が完全にコントロールできるものではないことも、発信者への注目が遅れた理由だろう。WOMの影響力が増した現在は、コントロールできないことを前提に、いかにして自発的にWOMを発信してもらうか、WOM発信の確率をいかに上げるかを考えるようになった。

何がWOM発信をさせるのか

ここまで、なぜ消費者はWOMを重視するのか、そしてWOMが重視されるようになった背景を辿ってきた。ここでは、消費者がWOM発信をする理由を掘り下げていきたい。その理由を、商品やサービスのプロモーションに適切に組み込むことができれば、消費者のWOM発信を促せる可能性があるからだ …

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