シンガポールのプロサッカーリーグ、シンガポールプレミアリーグに所属するアルビレックス新潟シンガポールは、異国で挑戦を続ける日本のサッカークラブだ。存続の危機を乗り越え、2016年からはリーグ優勝を続けている。クラブを危機から救い、現在はスペイン、ミャンマーとにも拠点を持つまでに成長させた、アルビレックス新潟シンガポールに迫る。
10年で売り上げ40倍 是永氏就任を機に成長
シンガポールプレミアリーグは、1996年にSリーグとしてスタートした、シンガポールのプロサッカーリーグだ。同リーグは、シンガポール代表の強化を狙い、近隣諸国のクラブや、外国籍選手を中心としたクラブの参加を認めている。
その、外国籍選手によるクラブの一つとして2004年からリーグに参加しているのが「アルビレックス新潟シンガポール」だ。その名前の通り、現在はJ2に所属するアルビレックス新潟の関連会社。元々は、アルビレックス新潟に海外の有望選手を加入させる思惑を持っていたが、クラブ運営は順調に進まなかった。
アルビレックス新潟は、設立以来毎年のようにシンガポールへ資金を投入していた。しかし、日本側の経営に余裕がなくなり、存続の危機が訪れる。そこでクラブ運営を引き継いだのが、現在、アルビレックス新潟シンガポールのCEOを務める是永大輔氏だった。
是永氏は、サッカーを愛し、サッカー関連メディアで仕事をしながら、サッカークラブに携わる夢を持っていたという。2008年、同氏の耳にアルビレックス新潟シンガポールが新たな経営者を探しているとの情報が入る。着任以降の10年でクラブの売り上げは40倍近く伸び、40億円規模に成長した。売上高40億円は、2016年の川崎フロンターレのそれに匹敵する額だ。
是永氏が経営を引き継いだとき、日本からの資金投入はなくなり、代わりに、経営や運営は自由にできることになった。以降、独立採算制へと舵を切り、現在に至る。
シンガポールプレミアリーグの特徴のひとつに、「スポンサー獲得や集客が重視されない」ことがある。というのは、クラブハウスでのカジノ運営が許されていたり、軍や警察といった母体のあるクラブや、運営資金を提供するパトロン的な存在を持つクラブが多かったりと、リーグからの分配金とそれらの収入で十分クラブを維持できるためだ。
しかし、アルビレックス新潟シンガポールは別。海外クラブとみなされて分配金が少ないため、同クラブだけは、スポンサー集めや集客に注力しなければならない。
観戦を目的としない来場意欲を刺激するストーリー
アルビレックス新潟シンガポールが運営資金のためだけでなく、スポンサー獲得や観客動員を目指すのには、もうひとつ理由がある。シンガポールにおける、日本人を中心としたクラブの存在理由を示すためだ。いまは在籍できているが、この体制がこれからも続いていく保証はない …