ダイレクトマーケティングの進化に合わせ、求められる人材像もまた、移り変わっていく。米国におけるトレーニングコース事例も参照しながら「顧客中心主義」の視点で人材育成のポイントを紹介する。
ダイレクトマーケティングはかつて、主にカタログ通販企業が行う郵便や電話を通じた直接販売、直接受注を指していた。それが広告メディアとしても受注チャネルとしても機能するインターネットの普及で、爆発的に領域を広げ、現在ではEコマース(EC)専業企業、メーカー型通販、オムニチャネルを目指す店舗小売などがしのぎを削るマーケティングの一大潮流となっている。
こうしたダイレクトマーケティングの拡張と求められる人材像の変化について考えてみたい。
ダイレクトマーケティングの拡張(1)
Web、デジタルマーケティング
カタログ通販の代名詞だったダイレクトマーケティングにおいて、最初の大きな変化はインターネットや電子メールの普及によって起きた。
インターネット上のオンラインストアでは、紙のカタログよりもはるかに機動的にコンテンツを更新できる上、ショッピングカート機能を通じて販売も可能だ。そして電子メールは媒体の印刷や郵送に伴うコストを気にする必要がない。多くのEC専業企業が事業を起こし、既存のカタログ通販企業もオンラインストアを開設してマルチチャネル化が進んだ。
そして次の変化はスマートフォンの普及で起きた。スマートフォンは電話というより、「携帯ネット接続端末」としての要素が大きい。
かつての、いわゆるガラケーよりもはるかにリッチで双方向性に富む経験をユーザに提供でき、パソコンよりもはるかにパーソナルで場所の制約を受けない。ここに至って、かつてコンセプトの方が先行し、手段が追いついていなかった「One to Oneマーケティング」が実現する機会が到来したのである。
大手食品メーカーなど、従来は中間流通を通してしか消費者と接して来なかったプレーヤーまでダイレクトマーケティングの世界に参入して来たのは、この点が大きい。
販売チャネルとしての機能だけでなく、それまで外部に委託していた消費者調査やアンケートなどもダイレクトに実施できる上、新商品のテストマーケティングも行える。さらには自社サイトで商品企画の募集をして、ネット限定で販売する、といったメーカーまで現れるようになった。
ある米国の学者が「ダイレクトマーケティングはマーケティングの実験場である」と言ったが、大手メーカーにとって、ダイレクトマーケティング事業は直接得られる売り上げ以上に、自社のマーケティングを進化させるための知見や洞察を得る場としての要素を重視しているように思える。
ダイレクトマーケティングの拡張(2)
店舗小売が主導するオムニチャネル
従来、ダイレクトマーケティングは無店舗販売が前提であって、店舗小売はその範疇外とみなされてきた。
それが英大手スーパー「TESCO」のようにポイントカード発行時に個人情報も同時に取得する方式で顧客IDと購買データを関連付け、データベースを活用したマーケティング施策を展開したり、実店舗とオンラインストアの双方を持ったりすることが当たり前になると、店舗小売業はダイレクトマーケティングのプレーヤーとして存在感を示すようになった。
また、先ほどのスマートフォンの普及は、店舗小売における顧客体験向上のための各種デジタルマーケティング施策を加速させ、「オムニチャネル」というコンセプトに昇華した。ある意味、かつてのWebマーケティング時代にEC専業勢力から顧客のお財布シェアを奪われた店舗小売の逆襲とも言える。
デジタル&オムニチャネル化で人材需要とスキルも変わる
このようなダイレクトマーケティングの拡張は、ダイレクトマーケティング人材に求められるスキルに大きな変化をもたらしている。ここではそれを、(1)伝統的ダイレクトマーケティングスキル、(2)デジタル&オムニチャネル時代のダイレクトマーケティングスキル、(3)マーケターとしての一般的スキルの3つに分けて整理する。
そして、さらに前提として「顧客中心主義」について触れておきたい。この考え方は「お客さま第一主義」との混同など誤解が多く、ダイレクトマーケティング進化の妨げになっているように思えるので、少しお付き合い願えればと思う。
すべての起点は「顧客中心主義」
筆者は、通販企業在職時代に社会人向け大学院に通うチャンスを得て、ダイレクトマーケティングやCRM(顧客関係マネジメント)に関する海外論文に多く触れた。そこで目からウロコが落ちる思いをしたのが、「顧客中心主義:Customer Centricity」という考え方である。【表】は、とある論文に掲載されていた「製品中心のアプローチと顧客中心のアプローチの比較」だが、ここで特に強調したいのは、「組織構造」「業績評価」「経営尺度」だ …