短期的な売り上げを追いかけるものとされがちな1 to 1マーケティング。データマーケティング事業などを手がけるSupershipで、マーケティング事業の戦略立案を手がける小嶋泰我氏は、「中長期的な事業を最大化する施策として注力していくべき領域」と語る。
カタログからEコマースへ 求められるスキルは?
従来型のカタログ通販とEコマース、メーカー通販における決定的な違いはどこにあるだろうか?
カタログ通販と言えば、印刷メディアとして四半期に一度くらいのペースで発行され、主に家庭の中で消費者に親しまれているもの、といったイメージが一般的ではないだろうか。発行元のメーカーは、季節ごとのニーズに合わせ、紙面上で自社商品の魅力を伝え、顧客リスト上の消費者にカタログを届けることになる。
対して、Eコマース(EC)は、Webサイト上で随時、時にはパーソナライズされた商品が更新され、インターネットへのアクセス環境がある消費者であれば、誰もが、どこでも利用できる。
ECの巨人である米アマゾンや、楽天を例にとると、デイリーのセールスランキングが表示され、毎日のようにおすすめ商品が入れ替わり、あなたへのオススメ商品がレコメンドされる。
これは実際効果的で、私自身の経験に照らしても、ECモールのダイレクトマーケティングを行う際に、顧客のセグメントごとにクリエイティブ(表現)や、商品の掲載順を入れ替えることで、利用者の反応が劇的に高まるケースはいくどとなくあった。
「新しい情報発信を低コストでスピーディに行える」「データに基づいて、個々の消費者をとらえた細やかなコミュニケーションができる」「インタラクティブなコミュニケーションが可能である」といった点は、Webだからこそ実現可能な特性だ。
だからこそ、マーケターに求められるコミュニケーション設計の領域は急速に拡大している。同時に、消費者への接触における選択肢が格段に増えているとも言える。
前段が長くなったが、いま、従来のカタログ通販からEコマースへのシフトにあたり、マーケターに求められるスキルとして、以下は不可欠となってくるだろう。
・スピーディにPDCAサイクルを回せるスキル
・顧客目線でのユーザー体験の設計スキル
・プラットフォーム特性を理解し、使いこなすスキル
・1 to 1を実現するためのデータを使いこなすスキル
従来型ダイレクトマーケティングが"響かない"のはなぜか?
従来の非Web型のダイレクトマーケティングでは、顧客のリスト化を行い、魅力的なクリエイティブで適切な商品を取り揃えるか、が重視されてきた。
しかし、こうした「自社目線」でのダイレクトマーケティングを続けていても、残念ながら現代の消費者には"響かない"。
インターネットが当たり前のものとなった現代の消費者は、日々さまざまな情報に触れることができ、その中から欲しいものだけを"選択する"ようになった。
情報にあふれた時代に求められるのは、消費者へ情報を届けるツール(プラットフォーム)の特性をしっかりと理解し、活用し得る、あらゆるデータを駆使した「顧客目線」のダイレクトマーケティングだ。
ダイレクトマーケティングに「顧客目線」を
「顧客目線」でダイレクトマーケティングを行なうには、「自社目線」から脱却し、ユーザーごとの「顧客体験」をもとに要件定義を行う必要がある。
テクノロジーの進化により、さまざまなデータが収集・蓄積できるようになったことで、データの活用範囲も飛躍的に広がった。マーケターとしては、計測できるデータが増えたことでマーケティング施策のKPIが多様化することとなり、同時にユーザーインサイトにより得られる情報も増えた。
従来はダイレクトメールやメールマガジンの反応しか計測できなかったものが、いまはWeb上の行動データから、購入した商品の情報や閲覧情報はもちろん、アトリビューション(間接的な広告効果)まで可視化できるようになっている。
マーケティングにおいてこれらの貴重なデータを活用するためには、顧客と接点を持つことができるプラットフォームの特性やできることを理解した上で、さまざまなデータを収集して分析し、KPIに基づいてアプローチをすること、ターゲットのセグメンテーションを行うことが必要だ。
顧客を理解し、顧客に寄り添ったコミュニケーション設計(具体的にはサイト上に表示する商品、表示させるメッセージの内容とタイミング、クリエイティブなど)を行うには、前述したスキルが求められるため、組織・人材の育成も当然実施しなければならないわけだが、この部分に関しては後述する。
一方、非WebとWeb上のダイレクトマーケティングはどのように連携させるべきか。KPIとして、従来では独立したチャネルごとに、短期的にどれくらい売り上げるかという要件定義が多かったが、それでは本質を見失ってしまうことが往々にしてある …