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「体験」が実店舗を進化させる

なぜコリスはぼくらの心をとらえるのか

針生謙一氏

創業70周年を迎えた、大阪の老舗菓子メーカー、コリス。同社が販売する「フエラムネ」はドーナツ状で、穴から息を吹くと音が鳴る。8個入りで60円だが、なんとオマケも付いている。一見、チープなのだが、そのオマケを愛してやまない人は多い。その魅力の源とは一体なんだろうか。

リアル動物シリーズ 新・旧の比較
「リアル動物シリーズ」。左が旧シリーズで、右が新シリーズ。ライオンの頭部が妙に大きいデザインがなんとも言えない味わい。グリーンのものは、おそらく犬だが、スケール感から、別の生き物に思えなくもない。カバは手にとってみると威圧感がある。

メーカーからして謎 「クッキーマン事件」

『笛ラムネ遊び方分からず生産中止』─。こんな見出しが4年ほど前、ネットで話題となった。大阪市の菓子メーカー、コリス(現在は販売機能のみ、製造は親会社のママリス)による発表が発端だ。ドーナツ型の白いラムネで、穴からピューと吹けるフエ(笛)ラムネと言えば、子どものころ食べたことを思い出す方もいるかもしれない。創業70年。昭和から残る駄菓子だ。

冒頭の遊び方がわからない、というのは笛ではなく、オマケのほう。問題となったのは「クッキーマン」と名付けられた、女の子用おもちゃのシリーズだった。クリスマスシーズンに見かけるジンジャーブレッドマンのようなデザインで、笑顔、無表情、ウインクといったさまざまな表情の「クッキーマン」がいる。

しかし、それだけ。どう遊べばいいのか、ちょっとわからない。結果、コリスに"問い合わせ"という名の苦情が多数寄せられ、同社は「生産を中止します」と発表したのだった。

この「クッキーマン」、現在は復活している。「#クッキーマンを救え」というハッシュタグ(話題が共通するソーシャルメディア投稿を結ぶ文言)を広め、呼びかけた人物がいる。針生謙一氏。自称・日本コリスハンター協会(非公認)の隊長だ(会長ではない)。2014年7月の生産中止の発表からすぐ呼びかけを始め、翌8月にはコリスから「生産再開」が発表された。

針生氏は「どうも振り回されている気がしますが……」と笑う。

「コリスのオマケは、クッキーマンにかぎらず、ほぼすべて、遊び方はわからないんです。それこそが魅力。なのでクレームで生産中止というのも、我々、コリスハンター(コリスのオマケのファン)にはよくわからないし、1カ月で再開というのも謎。オマケも謎に包まれているのですが、コリス自身がミステリアスすぎて、プロモーションのために話題を喚起したいのか、狙っていないのかも不明なんです。声は届いているようですが、このご時世に、消費者とコミュニケーションを取ろうとする意図もないようです。『クッキーマン事件』は、オマケを通じてコリスと意思疎通が図れた、極めてレアなケースですよ」

恐竜の世界シリーズ 新・旧の比較
「恐竜の世界シリーズ」。こちらは右が旧シリーズで、左が新シリーズ。旧シリーズは、オーパーツの「恐竜土偶」のように見えなくもない。オレンジ色の新シリーズの恐竜の口元は、少し微笑んでいる。

全体像が明かされないミステリアスさ

針生氏の本業は、キャラクターデザイナーだ。カプセルトイの商品企画も手がける。もともとおもちゃが好きで、コリスにかぎらず、あらゆる玩具を集めていた。

なかでも針生氏の心をガッシリつかんで離さないのがコリスだ。しかし、コレクター魂を刺激されているだけでもないようなのだ。

「『クッキーマン事件』でちょっと話題になったので、誤解している方もいるかもしれませんが、コリスのオマケは、『クッキーマン』以外にも、数々のシリーズがあります。それで、キャンペーンごとにシリーズが入れ替わるのではなく、常に複数のシリーズがまぜこぜになっているのです。ラインナップは明かされておらず、どこまで集めれば終わるのかが、わからないんですよ。たぶん、コンプリートするのは一生かけても不可能なんじゃないでしょうか」

現在、針生氏がストックしているコリスのオマケは約3000個。それだけ集めていると、見えてくるものがある。「ぜんぶ勝手に名前をつけてるのですが、」と前置きする針生氏に、いくつか、お気に入りのシリーズを紹介してもらった。

「たとえば、このリアル動物シリーズ。どうやら新シリーズと、旧シリーズがあって、金型が変わっています。海底生物&地底生物シリーズや、台座火星人シリーズは、昔の特撮ヒーロー者に出てきそうな風貌です。サイボーグ動物に、悟りアニマルシリーズ。カクカク昆虫シリーズや、クルマや飛行機、宇宙船などもあります」

これらは男の子用おもちゃで、「クッキーマン」のように、女の子用おもちゃもある。こちらは生物がほぼおらず、道具ふうのものがほとんどだ。ただし、テニスラケットとブラシが一体化した、通称「ラケットブラシ」など、また違うミステリアスさはある。ちょっと聞くだけでも、オマケの全体像がまったくわからず、気が遠くなるようだ。

世の中にキャラクターコラボレーションの企画は数多くあれど、コリスのオマケは、その逆を独走している。針生氏は「そこがファンの心をつかんで離さない」と語る …

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